この十数年でずいぶん変わりましたが、当時は物乞いが多く、国際機関とは世界の天と地ぐらいの差がありました。現場をもっと知りたいと思い、2週間の滞在期間中に現地の大学院への入学を決めました。両親は大反対だったけど、私は進路においては絶対しっかり腹落ちしたものを選びたいと思っていたんです。

「腑(ふ)に落ちる」という言葉が好きなんです。人は腑に落ちれば、どこまででも一人でモチベーションを生み出せます。でも、そうでない人は他人からの評価など、外から動機を持ち出さないといけない。目の前に広がる現場で2年間過ごし、何かつかんでから帰る。これが自分との約束になりました。

バングラデシュでの2年間は(中高で打ち込んだ)柔道の5年間に並ぶ、大きな意味のある経験になりました。競争社会での優劣とは違う生きる意味、価値をベンガル人が教えてくれたことに感謝しています。それまでは、やはり自分のキャリアや評価を気にしていましたから。この期間がなければ、マザーハウスの哲学そのものが生まれなかったと思います。

「世界の中の自分」を見つめ直す挑戦が始まっている。

「大学では『自分とは』を突き詰めた。今は世界の中で自分は何者かを見つめ直している』と話す

4月にシンガポールに出店し、新たにミャンマーでの生産も始まって、製販併せて10カ国に広がりました。アジアでは基盤ができてブランドの立ち上げができましたが、世界で勝負しているかというとゼロ点です。欧米にはアジアとは異なる美に対する価値観がありますが、そこで「この価値観どうですか」と提案もできていない段階。せめて「どうですか」と問いたい。

(途上国発のブランドを欧米に持ち込むという)構造が逆転するアクションにワクワクしています。パリでバッグを見せても「革は僕たちのもの」という意識です。そういう本家本元の人たちに対し、バングラデシュならではの革で作った製品という、選択肢を広げるボールを投げてみたい。価値観の違う大陸に入っていくには、ブランドの文脈も変える必要があると考えています。大学でずっと「自分とは」ということを突き詰めてきましたが、今は「世界の中で自分は何者か」と見つめ直しているところです。

原点の教育に関しても、バングラデシュでの経験に基づいた絵本を描いて日本の学校に配布するなどの活動をしています。途上国においても教育は重要なので、これから拡大していくバングラデシュの自社工場には青空教室のような施設も併設していきたいと考えています。

(ライター 高橋恵里)

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