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ブラックホールの初撮影 わかったことと新たな謎

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/4/29

「全体が動いているため、一部は私たちに向かってくるのです。『インターステラー』の表現は、この点で間違っています!」と、マーコフ氏は2014年のSF映画で描かれた超大質量ブラックホールとの違いを指摘した。「この画像には圧倒的なものがあります。私たちは今、時空の吸い込み穴を見ているのです」

銀河系の近くにあるおとめ座銀河団の楕円銀河M87には、超大質量ブラックホールと数兆個の恒星、そして約1万5000個の球状星団がある。私たちの銀河系は数千億の恒星と約150個の球状星団からなる(PHOTOGRAPH BY NASA, ESA AND THE HUBBLE HERITAGE TEAM (STSCI/AURA); ACKNOWLEDGMENT: P. COTE (HERZBERG INSTITUTE OF ASTROPHYSICS) AND E. BALTZ (STANFORD UNIVERSITY))

■質量は太陽の65億倍、大きさは?

研究チームは、M87のブラックホールの事象の地平線に基づき、その質量を太陽の約65億倍と見積もった。これは、ブラックホールのまわりを公転する恒星の運動から間接的に見積もられた質量に近い。ただし、ブラックホールのまわりを公転するガスの運動から見積もられた数字と比べると、はるかに大きかった。ガスの運動からブラックホールの質量を推定する手法は、恒星の運動を利用する手法よりも容易で、より広く用いられている。この手法が不正確であるなら、科学者はその理由を明らかにしなければならない。

米プリンストン大学の天体物理学者ジェニー・グリーン氏は、「ガスの運動に基づいてブラックホールの質量を見積もる手法は、小さい銀河から始まり、どんどん大きい銀河に適用されるようになっていきました。そろそろ、この手法を正しく調整する段階に来ているのかもしれません」と言う。

新しいデータはブラックホールの質量を推定するのには役立つが、M87のブラックホールの事象の地平線の範囲を厳密に決めるのは少々難しい。画像を見るとわかるように、中心部の黒い円のシルエットはぼやけている。その正確な直径は、ブラックホールの回転速度や、宇宙での正確な向きなど、まだ明らかになっていない多くの要素に依存している。

このブラックホールが私たちの太陽系にあったら、その事象の地平線は冥王星の軌道のはるか彼方まで、もしかすると、地球から太陽までの距離の120倍以上の距離まで広がっているかもしれない。

だとすると、M87のブラックホールに落ちる人は、事象の地平線を横切った時点では何も感じないだろう。ブラックホールが大きすぎて、事象の地平線の時空はほとんど曲がっていないからだ。そこでは、M87の巨大な重力はあなたの頭の先からつま先までを同じ力で引っ張っている。しかし、さらに落ちていくうちに時空の曲がりが強くなり、あなたはひも状に引き裂かれてしまうだろう。

■ジェットを生み出すもの

「特異点」と呼ばれるブラックホールの中心に何かあるのか、あるとしたら何があるのか、誰も知らない。宇宙に開いたこの穴の周囲には曲がった時空が広がっていて、そこから脱出できるものはない。

しかし、今回の画像は、M87のブラックホールから光速に近い猛スピードで噴出する超高エネルギー粒子について理解する手がかりを与えてくれるはずだ。M87の可視光のジェットは長さ約4900光年に及び、特に目を引く現象だ。

一般に、ブラックホールは物質を吸い込む天体であるとされているため、物質を噴射しているという概念は逆説的に聞こえるかもしれないが、ブラックホールが訳のわからない挙動をするのは今に始まったことではない。

M87の中心は宇宙の巨大なサーチライトによって輝いている。ブラックホールからエネルギーを供給された素粒子のジェットが光速に近い速度で噴出しているのだ。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したこの画像では、M87の恒星や星団の黄色い光と青いジェットが美しい対照をなしている(PHOTOGRAPH BY NASA AND THE HUBBLE HERITAGE TEAM (STSCI/AURA))

カナダ、マギル大学のダリル・ハガード氏は、「ブラックホールは、物質をかき集めるのと同じくらい、物質を放り出すのが得意なようです」と言うが、ブラックホールがジェットにエネルギーを供給するしくみはまだよくわかっていないと説明する。

これまでに複数の天文台が幅広い電磁スペクトルでブラックホールを観測し、ジェットの背景にあるエンジンを明らかにしようと試みてきた。

マーコフ氏によると、このようなジェットは、事象の地平線のまわりを回る物質が作る円盤(エルゴ球と呼ばれる)から生じているようだという。エルゴ球では、時空は永久に回転している。この領域の特徴は、強い磁力線と、数百万度まで熱せられたガスと、信じられないような高速で飛び回る粒子だ。これらの要素が微視的なスケールで相互作用することにより、何らかのしくみで、ジェットに含まれる膨大なエネルギーが解放されるのだ。

マーコフ氏は、M87のブラックホールの比較的活発なジェットを、今後発表される私たちの銀河系の眠れるブラックホールと比較することで、「宇宙の長い歴史におけるブラックホールの影響の変動をよりよく理解できるようになるでしょう」と期待する。

(文 Nadia Drake、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年4月12日付]

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