ナショジオ

ニュース

ブラックホールの初撮影 わかったことと新たな謎

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/4/29

超大質量ブラックホールは、それを取り巻く銀河に比べれば非常に小さい。こうしたブラックホールの姿を写し出すためには、世界各地の電波望遠鏡を動員する必要があった。最終的に、メキシコ、ハワイ、米アリゾナ州、チリ、スペインの6つの天文台の望遠鏡がM87に向けられた。この観測網は地球と同じ大きさの1つの望遠鏡として機能し、ハッブル宇宙望遠鏡が見られる天体の1万分の1の大きさの天体を観測できる。

世界各地の強力な電波望遠鏡を同期させることで、単独の望遠鏡には不可能な有効解像度と感度を実現することができる。施設間の距離の大きさが、この「イベント・ホライズン・テレスコープ」の性能を高めるのに役立っている

EHTの画像チームのメンバーである米カリフォルニア工科大学のケイティー・ブーマン氏は、「私たちが撮影しようとしているものは、空の中ではとてつもなく小さいのです」と説明する。「月面に置いたオレンジの写真を撮影しようとするようなものです」

研究チームは数日間、短波長の電波でM87を観測した。電波であれば、銀河の中心部を包むちりとガスの雲を貫くことができるからだ。研究チームがM87やその他の天体の観測で収集したデータは5ペタ(ペタは1000兆)バイトにもなり、データはハードディスクごと運ばなければならなかった。

ハワイのマウナケア山には多くの天文台があり、イベント・ホライズン・テレスコープの2017年の観測に参加したジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡もここにある(左から2つめ)(PHOTOGRAPH BY BABAK TAFRESHI)

別々の天文台からの観測結果をつなぎ合わせる作業は非常に複雑であるため、4つのチームが独立にデータ処理を行った。各チームは別々のアルゴリズムを用い、その結果を別のモデルと比較して検証した。その結果、各チームが生成した画像は互いによく似ていて、観測に問題はないことが示された。実際、最終的に得られた画像は、研究者が事前に行っていたシミュレーションで得られた画像とほとんど見分けがつかないほどよく似ていた。

EHTチームのメンバーであるオランダ、アムステルダム大学のセラ・マーコフ氏は、「怖いくらい予想通りでした」と言う。

研究チームは、近いうちに、地球から最も近く、最も重要な超大質量ブラックホールであるいて座A*の画像を発表する予定だ。しかし、いて座A*の方が近いから、今回の画像よりシャープな画像になるだろうと期待してはならない。

英国の王室天文官であるケンブリッジ大学のマーティン・リース氏は、「M87のブラックホールはいて座A*の約2000倍遠くにありますが、大きさも約2000倍です」と言う。「つまり、地球から見た時の大きさはどちらも同じなのです」

■膨大なデータから見えてきたこと

画像を手にした科学者たちは、ブラックホールの物理学の謎を深く研究できるようになった。そこには基礎の確認も含まれている。

「こうした観測から知りたいのは、ブラックホールの特性が、アインシュタインの理論から予想されるものと同じかどうかということです」とリース氏は言う。

これまでにわかった範囲でいえば、アインシュタインの予想はどちらかと言えば正しかったようだ。アインシュタインはブラックホールの存在については懐疑的だったが、彼が1915年に発表した一般相対性理論の方程式の解は、宇宙に非常に重い天体があれば、それは球形で、光の輪に埋め込まれた黒い影のようなものであると予言していた。

M87のブラックホールの画像はその予想と一致していた。光の輪はやや不均一で、膨らんだドーナツのように見えるが、それも予想されていた。ブラックホールのまわりを回る円盤は、その一部が私たちの方に向かって動いているため少し明るく見えるのだ。

ナショジオ 新着記事

ALL CHANNEL