キャビア養殖をゼロから創業 アジア放浪からの着想金子コード(上)

人間の根源的な営み=食に着目

新規事業を開拓する上で出した条件はたった2つだ。1つめは既存事業とは全く違う分野であること。もう1つは、成功するまで10年以上かかること。「既存事業の延長線上なら、今ある事業部が手がければいい。成功までに10年以上かかる息の長い事業を探せと指示したのは、短期間で社長交代する大手では、(長い立ち上げ期間を必要とする事業には)簡単に意思決定できないと考えたからです」と金子氏は言う。

どこへ行けとも、どの業界を探れとも指示されなかった中村氏は自分自身の判断で、東南アジアを放浪する旅に出ることに。金子社長もそれを快諾し、戻る期限は切らなかった。

過渡期を知る、金子コードの事業統括本部本部長、渥美安司氏(右)と、新規事業を託された食品部部長の中村秀憲氏

「最初に向かったのはインドネシアでした。取引先の駐在員を紹介してもらい、そこから人づてに話を聞いて歩きました。事業のヒントを探るというよりは、市場そのものを体感することが目的です。インドネシアからフィリピン、ベトナムと7カ国を回り、バックパッカーのような旅を続けるなかで感じたのは、衣食住のうち、人間が生きるうえで最も根源的な要素は食だということでした」(中村氏)

途中帰国して社長に経過報告をするうち、「チョウザメを養殖してキャビアにして売る」というアイデアが固まった。養殖場は「約10カ所あった候補地の中から、水質を比べて、浜松市に絞った」(中村氏)。決め手の1つになったのは、地元漁業組合の組合長が理解を示してくれたことだ。「サメとチョウザメは違うのだというところから丁寧に話をさせていただく機会を得て、最終的には地域の方々の理解も得ることができました」(中村氏)

ゼロイチ精神を社員に求める理由

金子コードでは稚魚と同時に、ある程度まで育ったチョウザメも購入する。地下水を掛け流しながら養殖し、11月から3月までの旬のキャビアを採取している。

「稚魚からだと、キャビアとして販売できるようになるまで約10年かかります。ということはその間、営業に力を注げる。一気に事業展開できない分、それほどマンパワーをかけなくてもできるだろうと判断しました」と中村氏は語る。

販売先は今のところ、高級レストランが中心だ。一流店のシェフたちはいわば、料理界のエリート。国境を越えて動き、互いに情報交換もしている。トップシェフに認めてもらえれば、その噂はたちまち海外へ広まる。

金子社長は社長人生を3つに区切った2つめの9年間で、「キャビア事業のようなゼロイチ(=ゼロの状態から始めて、事業を興す)を次々と生み出していきたい」という考えだ。すでに、形状記憶合金を使った人工筋肉の開発にも乗り出している。

なぜ新規事業にこだわるのかという問いに、金子氏はこう答えた。

「企業が守りに入ると、社内が1から10を生み出す人ばかりになってしまいます。私がゼロイチにこだわるのは、何もないところから事業を創り出すことがどれだけ大変で、それを成し遂げられたら、会社にとってどれだけ大きな財産になるかということを全社員に知らしめ、それをDNAとして残したいから。『10年後にナンバーワンになるような事業』を目標に据え、今も新規事業を考えています」

(ライター 曲沼美恵)

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