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パワハラ上司と呼ばれないために 部下との賢い対話術 『人事が直面する職場トラブル』樋口ユミ氏

2019/4/24

■部下世代のメンタリティーとは

「NGワード・事例を並べて言葉狩り・しぐさ狩りに努めても、課題解決にはつながりにくい」と話す樋口ユミ氏

育成の重要性を理解しているとしても、実際に指導をするとなると極めて難しい。問題が起きたときに上司側が「部下のためを思えばこその『愛のむち』」と述べても、その主張は通りにくい。今のパワハラ対応は、被害を受けた側の受け止め方を重視するからだ。どのレベルを超えたら部下が「不快」「不当」と感じるのかを上司は予測しにくい。だからリスクを避けるため距離を置いたり、言葉をのみ込んだりしてしまいがちになる。「明らかにアウトの言動は例示できる。でも、その手前のグレーゾーンで妥当か否かの判断は至難」と、企業の委託を受けて外部通報窓口も務める樋口氏は線引きの難しさを認める。

樋口氏は、本来「ここまではOK」「ここから先はアウト」とパワハラを度合いの「不穏当さ」でレベル分けすること自体が好ましくないと考える。パワハラ対策で重要なのは、程度の見極めではない。実はパワハラを防ぐうえで共通認識として欠かせないのは、お互いが業務の負担を分かち合う働き手同士であるという認識だ。上司と部下が互いを尊重する態度が一緒に働くうえでのベースになる。「NGワード・事例を並べて言葉狩り・しぐさ狩りに努めても、課題解決にはつながりにくい」(樋口氏)。

この問題の根っこに横たわるのは「上司世代と部下世代の感覚的なギャップ」だと樋口氏はいう。現在の管理職層はかつての上司だったモーレツ世代から割とタフに育てられた原体験を持つ。それに対して「親にも教師にもきつくしかられる機会が少なかった部下世代のメンタリティーはかなり異質といえる」と樋口氏は分析する。部活動を通じていわゆる「体育会」的な縦ラインに慣れている部下層もいるが、若い世代の多くは高圧的な物言いにショックを受けてしまう。

こうした意識のずれを踏まえて、樋口氏は「世代を超えた目線合わせ」を勧める。基本的には上司が部下の目線に合わせていく。安易ななれ合いではなく、部下の生活信条や思考スタイルをつかんで折り合いをつけるべきだ。何だか難しそうにも思えるが「短い声かけから始められる」と樋口氏はアドバイスする。接触する頻度を日ごろから少しずつ高めていく行為の積み重ねが心理的な距離感を縮めてくれるわけだ。上司が自分を気にかけてくれているという意識が前提にあれば、「たった一言の忠告や苦言をパワハラとは考えにくくなる」(樋口氏)

部下との接点を持つことを面倒くさがって自分で仕事を抱え込んでしまうと、プレーイングマネジャーの性格が強まってしまう。その結果、なおさら部下と疎遠になりやすい。忙殺された上司にうとんじられた部下は「指導してもらえない」という不満を募らせ、チームは機能しなくなっていく……。疎外感を持つ部下にとって、たまに受け取る上司からの言葉が説教調であれば気持ちは一段とささくれ立つ。「部下に不信感を抱いて自分で業務を処理するのは、まずい選択だ。管理職にとって部下を育てるのも大事な仕事であり、パワハラのリスク回避は言い訳にならない」と、樋口氏は自己防衛に走る上司を戒める。

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