『しゃべくり007』で発見 トークの秘訣(井上芳雄)
第42回
井上芳雄です。最近はバラエティー番組に出る機会が増えました。なかでも3月11日に放送があった『しゃべくり007』(日本テレビ系)には反響がありました。バラエティーはまだ慣れなくて苦手なやりとりもありますが、トークの勉強にとてもいい経験です。
『しゃべくり007』はネプチューンさん、くりぃむしちゅーさん、チュートリアルさんの7人のお笑い芸人さんによるトークバラエティー。僕と生田絵梨花さんがゲストで、ミュージカルの話をしました。スタジオは、まるでトークの戦場。今までも、バラエティーは必死でやらないとだめだと思っていましたが、その集大成みたいな感じでした。レギュラーの皆さんは、番組のルール通り、誰がゲストか本当に知らなかったし、ミュージカルに詳しくない方も多いなかで、僕と生田さんは次々とふられる難題に応えていきました。
「ミュージカル俳優だからといって、『今の気持ちを歌で表現してください』と言われるのが一番苦手」という話をしたら、ばんばんそれをふられて、みんなでやってみるみたいなことにも。生田さんも、わさびが大量に入ったお寿司を食べるのに挑んだりと、本当に戦ってきたという感じです。
実際の放送を見ると、編集の力で面白いところがぎゅっと詰まっていたし、見たという人が多く、感想もよかったので、テレビの力は今も大きいとあらためて感じました。芸人さんもスタッフさんも、すごいエネルギーを注いで作っているので、それはお茶の間に伝わるんですね。僕たちが出たコーナーは30分くらいでしたが、収録自体は1時間半くらい。ゲストごとに1日に何本か撮るのだから、レギュラーの方たちのエネルギーは半端じゃない。ずっとボケたり、突っ込んだりしているわけですから。
その勢いにのせられるように、僕たちもテンションを上げて、ノリでいろんなことをしたのですが、後で振り返ると、言い過ぎたり、やり過ぎたりしたかもと反省することもありました。ミュージカルを多くの人に知ってほしくて出ているのに、演劇ファンの方が見て、ふざけているような印象だけが残ったりすると、本末転倒になってしまいます。ミュージカルへのリスペクトはきちんと伝えたいし、それをどう面白く表現するかのさじ加減が難しく、バラエティーに出るたびに試行錯誤しています。
でも、お笑いの方と番組でご一緒するのは、すごく勉強になります。きちんとした台本やネタもないのに、その場で瞬時に笑いをつくり出すスキルがすごいので。僕やミュージカルのことを知らなかったとしても、トークの流れの中で何か面白いことを探してくれて、それを上手に広げてくれます。キャラクターづくりをみんなでやってくれるのです。
例えば「東京藝術大学卒なんですよ。日本で一番難しい芸大なんですけど」とちらっと言ったら、自分をちょっと自慢するみたいなキャラづけをしてくれて、話がどんどんそっちに行く。僕ものせられて、謙遜しないトークで返すと、すぐに「自分で言わなくていいよ」と突っ込んでくれる。それぞれの役割をぱっと理解して、やりとりを盛り上げるスキルは頭脳プレーだし、その瞬発力が見事ですね。
バラエティーはキャラが大事
だからバラエティーに出たら、自分の役割を早くキャッチして、キャラをつくるのが大事だというのがわかってきました。親しい人とのおしゃべりが楽しいのは、相手が何が好きで、何が苦手かを知っていて、「また言っているよ」とか「あいつらしいね」と盛り上がれるから。お互いにキャラを知っているから面白いんです。逆に初対面の人と話して困るのは、相手がどういう人かわからないからで、わかってしまえば、そこを膨らませたり、突っ込んだりして話が広がっていきます。
トークの達人といわれる人たちは、その相手のキャラを読み取ろうとする集中力がすごい。だからこっちも「これができます」とか「これが得意です」という情報を早く伝えると、トークが弾むようになります。伝える技術も大事だと思いました。それは日常のコミュニケーションでも同じで、会話を盛り上げるコツでもあるのかなと思います。バラエティーのトークから学べることは多いですね。
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP社)。
「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第43回は5月4日(土)の予定です。
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