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なやみのとびら、著名人が解決!

中学生の娘が本を読まない 作家、石田衣良さん

2019/4/25

作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。石田衣良のブックサロン「世界はフィクションでできている」主催(https://yakan-hiko.com/meeting/ishidaira/top.html)。

中学生になっても次女が全くといっていいほど本を読みません。家にある書籍や図鑑を手に取ることはなく、書店や図書館にも「読みたい本がない」と言います。映像で得る知識はすんなり理解し、ちゃんと記憶しています。ある意味特技かなと思いますが、親としては文字を読んでほしいです。無理やりにでも読ませたほうがいいですか?(東京都・40代・女性)

とある調査によると、大学生の53%が1日の読書時間はゼロだそうです。逆にスマートフォンの平均利用時間は約3時間なのだとか。これは若者全般の傾向で、スマホはいじっても、本を読まないのが普通なのです。出版界の売り上げも20年以上落ち続け、いまや全盛期の半分ほどに縮小しています。ちなみにこれほど急激に本の世界がダウンサイズしたのは、先進国で日本だけです。

はっきりいいましょう。紙の本を読む行為は、すでに時代遅れの趣味なのです。だから、あなたも娘さんに無理やり本を読ませる必要はありません。

もちろんぼくは本を書いて生きているので、本の世界の素晴らしさをいくつでも即座にあげられます。これまで人類が考えたり感じたりしたことの、ほぼすべてが紙の本になっている。偉大な先人たちの知性や感性にふれるには、本が最高のメディアです。今のところネットの情報は紙の本を超える力をもっていません。閲覧数だけを競うサイトの多くは、ユーチューバーのように低劣になりがちです。ネットは質、量ともに紙の本にはとてもかないません。

おまけに本を読むと、言葉の力、コミュニケーション能力を磨くこともでき、社会生活に有利に働きます。入社試験の面接だって楽勝です。豊かな感性を育めば、生涯心ゆくまで芸術を楽しむこともできるでしょう。ああ、素晴らしき本の世界!

でも、これらはすべて生存のための不可欠条件ではありません。本は読まなくとも生きていけるのです。過半数の人たちが一生本など一冊も読まずに死んでいく。その人生を疑うこともない。そういう時代が今、目の前で始まりつつあります。それが日本の若者みんなで決めた次の時代の選択なのです。

娘さんにはこのコラムを見せてあげてください。これをきっかけに少数派である本の世界の住人になってくれるなら、ぼくは熱烈に歓迎します。それでも読む気にならないのなら、それはそれでいいではありませんか。スマホで動画配信サービスやニュースサイトを眺めて一生を送る。淋(さび)しいけれど、それもまた悪くない「普通」の人生です。

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[NIKKEIプラス1 2019年3月16日付]

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