かしこまった場では、企業も学生も本来の姿を見せ合えない──。「dot」(東京・渋谷)社長の冨田侑希さん(23)は2017年5月、そんな思いに突き動かされ、就活にイノベーションを起こそうと大学在学中に起業した。アイデアをシェアしながら形にしていく「Z世代」の強みを生かし、企業と学生が就活を意識せずに交流できるユニークな事業を展開している。
東京都渋谷区の住宅街にあるdotのオフィスはまるで、施工途中のカフェのような雰囲気だ。木をふんだんに使ったくつろげる空間で、2階の本棚にはイノベーションのヒントになるような様々なジャンルの書籍が並ぶ。聞けば元はそば屋で、コミュニケーション・ディレクターとして活躍している佐藤尚之さんのオフィスを間借りしているという。週に一度の定例会には大勢の学生や若者が集まり笑い声が絶えない。
集まっているのは大半がZ世代。1990年代半ば以降に生まれ、中学時代からスマートフォンに慣れ親しみ、SNS(ソーシャルネットワーク)を自在に使いこなすソーシャル・ネイティブを指す言葉だ。
「どうしたらみんなが本当に就職したい会社を選べるんだろうと考えた時、起業しか解決策はないんじゃないかと思ったし、今しかできないことだと思いました」。自身ももちろんZ世代である冨田さんは振り返る。
始まりは2016年、彼女がまだ学習院大学3年生だった時のことだ。経済学部経営学科に特別客員教授として招かれた起業家、斉藤徹氏のアイデアを形にする授業に刺激を受けた学生たちが、授業終了後、自主ゼミを開いていた。冨田さんもその一員だった。
「当時は就職活動中で、すごく焦っていました。そもそも世の中にどんな仕事があるのかもわかりませんでしたし、夏休みが終わる頃にはすでに100社近く訪問していたのに、どうしてもここで働きたいと思える会社が見つからなかったんです」
学生、企業、互いの素顔を隠しながらの就活はオカシイ!
見つからないのには理由があった。「就活では企業も学生も目いっぱいお化粧をした状態でお見合いをしているようなものです。例えばある日、学生が突然、ヘンな分け目の髪形で現れたことがありました。『どうしたの?』と聞くと、『この分け目じゃないと採用に不利だと言われました』と言う。誰が見ても不自然で、もっと伸び伸びすればいいのにと思っていました」と斉藤氏は言う。このような「都市伝説」としか思えなような噂に学生が左右されていた。