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「マエストロ」の実像描写 中央銀行家に大切なものは 訳者に聞く『グリーンスパン 何でも知っている男』

2019/4/23

しかし、グリーンスパンは任期の最後になってインフレ・ターゲティングに沿った自動操縦の思考に大きく傾いた。そして不動産バブルを見逃した。たとえバブルが生まれつつあったとしても、消費者物価などは安定しており、経済指標上は利上げを正当化できない。もしバブルが破裂したら、ハイテク株バブルの時と同じく果敢に対応すればよい――という発想だった。グリーンスパンの言葉で、おそらく日本で最も知られているのは「根拠なき熱狂」という警告の言葉であろう。バブルを見通す能力を備えていながら対応を誤った。

■政権のごり押しをかわした行動力

中央銀行の独立性、言い換えるなら、政治の介入の是非という問題でもグリーンスパンの行動には参考になる。現在、選挙を強く意識するトランプ政権はFRBにあからさまに圧力をかけている。金融の引き締めは常に政治家には不人気の政策だ。その点、グリーンスパンは金融政策での自由を確保するため、日ごろからひそかに動いて議会やマスコミ、市場関係者を味方につけ、政権のごり押しをかわした。制度上は中央銀行の独立性が担保されていても、実際に機能するかどうかは、中央銀行がどこまで信頼を得ているかにかかっている。選挙に勝って国政全般を任されている政権は有権者の声を背負っている。それに勝るだけの信頼がなければ、法律の条文にある独立性は空証文でしかない。日本にも通じる真実であろう。長い10連休の読書にお薦めしたい。=敬称略

(日本経済研究センター・エグゼクティブ・フェロー 村井浩紀)

グリーンスパン 何でも知っている男

著者 : セバスチャン・マラビー
訳者 : 村井浩紀
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 6,264円 (税込み)

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