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「マエストロ」の実像描写 中央銀行家に大切なものは 訳者に聞く『グリーンスパン 何でも知っている男』

2019/4/23

その後も、読者が「よくもこのようなキャリアで中央銀行のトップになったものだ」と驚くような歩みをグリーンスパンはたどる。アメリカ国民を対象にしたアンケートでは聖書の次に最も影響を受けた本に挙げられる小説『肩をすくめるアトラス』の著者で、自由を何よりも重んじるリバタリアンのリーダー、アイン・ランドの取り巻きの一員となり、中央銀行の存在を公然と批判する立場を取った。その後、友人からの誘いで大統領を目指す共和党のリチャード・ニクソンの選挙運動に加わり、政治的な駆け引きに目覚め、政権のチーフエコノミストたる大統領経済諮問委員会(CEA)委員長の座を勝ち取った(実際の就任はニクソン辞任後のフォード政権になってから)。民主党のカーター政権に交代すると、民間の経済コンサルタントに戻るが、レーガン政権でついにFRB議長のポストを手にする。

私生活ではグリーンスパンはとびきりの美人と26歳の時に結婚したものの、1年足らずで離婚。再婚したのは71歳になってからだった。その間、家庭を持つことは考えず、ひたすら経済分析と人脈づくりに明け暮れた。しかし単なる「堅物」ではなかった。彼を支えてくれる理解ある恋人たちがいつも傍らにいた。

■示唆に富むグリーンスパンの経験

後継のFRB議長は今のパウエルで3人目になるという意味ではグリーンスパンは「過去の人」かもしれないが、彼の経験には示唆に富む部分が多い。

例えば、金融政策は中央銀行家の裁量に委ねるべきか、それとも理論的な枠組みに沿って自動操縦すべきか、という議論がある。景気動向を嗅ぎ分ける能力にたけたグリーンスパンは経済理論をうのみすることはなかった。1996年に彼は景気過熱を恐れる周囲の意見を退け、利上げを見送った。経済指標には明確に表れていないものの、生産性向上が景気を引っ張っており、インフレ再来の恐れはないと見立てたからだ。これはいまだに語り継がれる素晴らしい判断だった。

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