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「マエストロ」の実像描写 中央銀行家に大切なものは 訳者に聞く『グリーンスパン 何でも知っている男』

2019/4/23

『グリーンスパン 何でも知っている男』 セバスチャン・マラビー著 村井浩紀訳 (日本経済新聞出版社)

1980年代後半から2000年代前半にかけて米連邦準備理事会(FRB)議長を務めたアラン・グリーンスパン。その決定版ともいえる伝記『グリーンスパン 何でも知っている男』が日本経済新聞出版社から刊行された。事典並みに分厚いその伝記を翻訳した日本経済研究センターの村井浩紀エグゼクティブ・フェローに読みどころを語ってもらった。

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中央銀行に関連した最近の著作には分厚いものが多いが、この優れた英国人ジャーナリスト、セバスチャン・マラビーの手になるアラン・グリーンスパンの伝記『グリーンスパン 何でも知っている男』もその例に漏れない。原著でおよそ800ページ、日本版で900ページに及ぶ。

■隠密行動や交友掘り起こす

しかし本書は堅苦しい本ではない。アメリカ経済を巧みにかじ取りし、絶頂期に“マエストロ”と呼ばれたグリーンスパンの若き日から連邦準備理事会(FRB)議長退任後までの人生を、知られざるエピソードを多数、交えて色鮮やかに再現した。グリーンスパン自身に回想録『波乱の時代』(日本版は日本経済新聞出版社から2007年に刊行)があるが、そこでは明かさなかった隠密行動や交友関係を掘り起こし、詳しく触れている。

中央銀行家とは、ある種の型にはまったイメージを一般に持たれてしまいがちだが、実は彼らの来歴は千差万別だ。日本銀行総裁の黒田東彦はもともとは財務官僚、FRB議長のジェローム・パウエルは法律家、欧州中央銀行(ECB)総裁のマリオ・ドラギは経済学者、そしてイングランド銀行(英中銀)総裁のマーク・カーニーはゴールドマン・サックスの投資銀行家だった。

■ジャズマンからエコノミストへ

グリーンスパンはとりわけ異色だ。最初の仕事は音楽家だった。ニューヨーク市内の高校(ヘンリー・キッシンジャー元国務長官は同じ高校に通う2歳年上の上級生だった)を卒業すると、名門ジュリアード音楽院に進み、ジャズバンドでサクソフォンやクラリネットを吹いた。仲間たちからは一定の評価を得たが、ソリストとしての大成は望めないと考え、進路を転換し、ニューヨーク大学に進み、経済学を修め、実証研究で知られるカンファレンス・ボードに就職した。つまり遠回りをしてエコノミストとなった。

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