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スマートクッキングはうま味のなせる技 味の素社長 味の素社長 西井孝明氏(上)

2019/4/20

味の素社長 西井孝明氏

和食がユネスコ無形文化遺産に認められる理由の一つとなった「うま味」。この成分であるグルタミン酸を、111年前に池田菊苗博士が発見して以来、主力商品とし、社名に掲げてきた味の素は、日本の食シーンをけん引してきた。西井孝明社長は「うま味のなせる技として、現代のスマートクッキングがある」と話す。

――昨年、うま味発見110年でした。

当時東京大学の化学者だった池田菊苗博士が、研究に励んでいました。家で湯豆腐を食べているとき、そのおいしさがコンブのだしから来るうま味であると気がつきます。奥さんに大量のコンブを買いに走らせ、煮詰めて、煮詰めて、ついに薄い褐色の結晶体を抽出したんですね。これがグルタミン酸で、うま味の発見でした。高価なコンブを買い、手間をかけてだしをとる奥さんの苦労をなんとか軽くしてあげたいという思いもあったといいます。ただ、グルタミン酸は水に溶けにくかったり、安定しなかったり、調理に使いずらいため、さらに研究を重ね、ナトリウムと結合させてグルタミン酸ナトリウム(MSG)という、うま味調味料の発明に至りました。

しかし、歴史はもっと前にさかのぼるんですよ。ローマ時代にもグルタミン酸が含まれている食品が食べられていたという記録があります。ただ、意図的に商品化されたのは19世紀の中ごろで、欧州で牛から抽出したものを煮詰め、ドロドロのエキスにして、それをビーフエキスという調味料として発売したのです。リービッヒのビーフ濃縮エキスというんですが、これは世界で最初の加工食品と言われています。

池田博士はドイツに留学した時、このビーフ濃縮エキスの普及ぶりを目の当たりにしました。ちょうど産業革命の時で、大量の農民だった人たちが都市に押し寄せ、産業革命を支えたわけです。この人たちが食べる食事を、大量生産し、おいしく豊かなものにするために、このビーフ濃縮エキスがものすごく貢献しました。この事実を池田博士はドイツで体感したんですね。それで、自分のキャリア、いわゆる純粋な基礎研究ではなく、科学の応用によって人間の生活を豊かに変えることができるということを留学中に確信したわけです。

――素晴らしい発見ですが、味の素がビジネスの柱として据えたのはなぜでしょう。

社長になった時に100年史を何回も読み返しましたけど、これには出ていないことがあるんですよ。池田博士と創業者の鈴木三郎助、当時の2人を知っている人が残しているものがあって、それによるとMSGを調味料として使うことによって、自分たちが実現したい「野望」みたいなものが実現できるんじゃないかと思ったらしいです。

それまで、食事をおいしく食べるためには、コンブやカツオ節などから手間と時間をかけてだしを取り、味噌汁や煮物などに使わなくてはなりませんでした。しかし、うま味を調味料として使えば、日本人の料理のかなりの部分を経済化することができるし、手軽に時間も創出することができる、今の言葉で言うとスマートクッキングですよね。これによって、よりおいしいものを、よりたくさん、バランスよく食べてもらうことができます。当時小さかった日本人の身体を大きくし、健康な生活を送るという願いを持ち、それをビジネスで展開することによって、自分たちも成功することができる……。これが2人の「野望」でした。

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