地方局制作ドラマに新たな可能性 ネット配信が武器に
大九明子監督が手掛けた名古屋テレビ(メ~テレ)の『イジューは岐阜と』(2018年10月期にローカル放送)や、岡田惠和脚本による三重県の港町を舞台にした中部日本放送(CBC)の『それでも恋する』(18年10月にTBS系で全国放送)など、地方局制作のドラマにスポットが当たることが増えた。その地域ならではのロケーションを生かし、地元出身の俳優を起用することが多い。近年は配信が普及してきており、全国放送でなくても多くの人が楽しめるようになった。そして3月には、北海道テレビ(HTB)が制作した大型作品が誕生した。
『チャンネルはそのまま!』は、『動物のお医者さん』などで知られる佐々木倫子のマンガが原作。札幌のローカルテレビ局を舞台に、謎の"バカ枠"で採用された新入社員・雪丸花子(芳根京子)が、数々の失敗をしながらも周囲に好影響をもたらしていくコメディだ。大泉洋がドラマオリジナルキャストとなるカリスマ農業技術者を演じるなど、HTBに縁の深いTEAM NACSのメンバーも全員出演。モデルとなったのがHTBであり、開局50周年の企画として、16年から実写ドラマ化のプロジェクトが始動した。
プロデューサーの取締役兼編成局長の福屋渉氏は、経緯についてこう語る。「企画を社内募集したのですが、佐々木先生が連載(08~13年)をしているときに、多くの局員が3年くらい取材を受けていたんです。そんな背景もあり、『ドラマ化を』という声が多く集まった。また、昨年秋に本社移転をしていて、取り壊す旧社屋で撮影ができることと、自分たちの働いていた場所が映像で残るというのもポイントでした」。
得意分野の違う5人で監督
『踊る大捜査線』シリーズの本広克行を総監督に迎え、同局のバラエティ『水曜どうでしょう』チーフディレクターの藤村忠寿氏や、ももいろクローバーZのステージ演出を担当する佐々木敦規氏ら、5人の監督による混成チームとなった。「僕らとしては、『地方局が頑張って作った』というのではなく、本物のエンタテインメントをという考えで、本広さんにお願いをしました。この作品にも出演している劇団ヨーロッパ企画との接点で、以前からお付き合いはあったんです」(福屋氏、以下同)。
1話55分で5話の構成。本広監督の提案で、1話ずつ担当するのではなく、得意分野を生かして複数人で監督するスタイルを取った。「5人全員が携わるシーンもあって、みんな違うことを言うから俳優さんは戸惑ったようです(笑)。地味な地方局の話で、作品自体に少しも派手さはないけれど、新しい空気が生まれて、それが実際に映像に出ていると思います」。
HTBは96年から14年まで、年1回のペースで85分の作品を作ってきており、文化庁芸術祭賞などでの受賞実績もあるが、近年はドラマ制作から離れていた。企画が走り出してから、「この規模は大きすぎた」とも感じたという。「時間や予算、様々な交渉など、全部自社でどれだけの体力で挑めるか。原作ものをやる怖さも知りませんでした。キー局のようにドラマ班なんてないですから、例えばスタッフを数人ドラマに割くだけでも大変だったりするんです。でもやっぱりドラマは総合芸術ですし、可能ならやりたい。局のイメージや営業的なことも含めて、いい財産になると思います」。
北海道地区での地上波放送のほか、3月11日からNetflixで配信されている。今回、配信で海外にもリーチすることにこだわった。「海外配信は譲れない点でした。見られるかどうかは別として、常に広く糸口を持っていたいので」。
クリエイターは「面白そう」なところに飛びつく。配信でコンテンツが多くの人に届く今、アイデアや熱意のあるローカル局にチャンスが巡ってきている。
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2019年4月号の記事を再構成]
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