激安スポーツ用品ずらり 仏発「デカトロン」の正体
世界51カ国に約1500店。売上高1兆3000億円超(2018年度)の巨人が3月末に日本に上陸した。フランス発で世界最大のスポーツ用品店「デカトロン(Decathlon)」だ。激安かつ高機能、多種多様な品ぞろえで世界を席巻する黒船の正体を探った。
ケシュアなどPBにファン
関西の「住みたい街」として人気の西宮北口(兵庫県西宮市)。街の顔である商業施設「阪急西宮ガーデンズ」に3月29日、デカトロンの日本1号店がオープンした。
デカトロンは1976年、フランス北部のリールで創業した。社名は五輪種目の一つである十種競技にちなんだもの。90年代以降、競技ごとにオリジナルブランドを次々と立ち上げ、製造・販売するビジネスモデルで急成長を遂げた。
自社開発ブランド(PB)が店内を埋め尽くす。デカトロン以上に、個々のブランド名のほうが知られている。
例えば、登山、ハイキング、キャンプなどのアウトドア用品は「QUECHUA(ケシュア)」、陸上、ランニング用品は「KALENJI(カレンジ)」として展開。特にケシュアは、アウトドア好きの間で有名なブランドだ。
ロードバイクやサイクリングは「B'TWIN(ビトウィン)」、ウオータースポーツは「TRIBORD(トリボード)」と細分化している。17年にはトリボードから枝分かれし、ダイビングに特化した「SUBEA(スベア)」が誕生した。どのブランドもイノベーションに力を入れている。
例えば05年の発売以来、ケシュアの代名詞となったポップアップテント「2 SECONDS(ツーセカンズ)」は、バックルを外すだけで、最短2秒でテントが立ち上がる。スベアのフルフェースマスク「Easybreath(イージーブレス)」は180度視界が開ける曇り止めレンズを顔全体に装着することで、自然な鼻呼吸でのシュノーケリングを実現した。
ヒットの秘訣は、ブランドごとに愛好家が多く集う場所に開発本社を構え、自らスポーツ愛好家の社員が試しながら商品を開発する手法だ。ケシュアは、アルプス山脈の麓にある仏サランシュに店舗併設の研究開発センターを構え、約150人のスタッフが在籍する。トリボードやスベアはサーフィンの中心地として知られる仏バスク地方の港町アンダイエに本拠を置く。
愛好家集う場に開発本社置く
一方、製品開発のプロセスは全社で一元管理しており、世界規模で材料を大量に仕入れ、縫製や製法の見直しによりコストダウンを図る。
例えば、ケシュアのバックパック(10リットル)は10年間の耐久性を保証しながら300円台で手に入る。底面に衝撃吸収構造を取り入れたウオーキングシューズは1990円から。1時間200ミリメートルの豪雨に耐えられる遮熱遮光テントも3000円台からと値ごろだ。
デカトロンは拡大路線をひた走る。01年にはブラジルのサンパウロ進出で南米に上陸。03年に中国・上海に店を構え、15年にタイのバンコク、16年にシンガポールとフィリピン、18年には韓国に1号店を出した。今や全世界で10万人以上を雇うグローバル企業となった。日本はアジア最後発に近いように見えるが、実は日本法人の「デカトロンジャパン」は93年の設立。当初は工場へ卸す資材調達がメインの拠点だった。
その後、釣り具やアウトドア用品のネット通販を手がけていたナチュラム(大阪市)と11年に業務提携して流通の足場を築き、まずケシュア商品から販売を開始。15年には日本向けのオンラインストアを開設した。さらに17年に大阪市内にショールームの「デカトロンラボ」を開業するなど、少しずつ準備を進めてきた。一気に日本へ攻め込み、撤退した仏大型スーパー「カルフール」とは対照的だ。
日本1号店の西宮店は広さ約1800平方メートル。海外の旗艦店のように80ジャンル以上の多彩な商品をそろえるとまではいかないが、キャンプやハイキング、ランニング、サイクリングなど30ジャンル以上の自社商品を展開する。
店内にはヨガやフィットネスの体験ゾーンや、シュノーケリングマスクの体験コーナーを設け、イベントを定期開催する。まず狙うのは家族で楽しめる店づくりだ。
(発売中の日経トレンディ5月号から再構成)
[日本経済新聞夕刊2019年4月13日付]
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