これと併せて校庭や体育館などの施設も午後7時半まで使えるようにしている。勉強時間をどう確保し、部活にどの程度参加するか。すべて生徒が自分で決め、PM・TMで管理する。
生徒に向き合う教師も忙しいようだ。西氏は「当番でない先生が残って、9時学で教えてくれることもある」。その忙しさをカバーするため、教師は「他の学校の1.5倍から2倍」(西氏)。生徒1640人に対し、非常勤を含む教職員は180人に上るという。
教員の質の維持にも目を配る。西氏は「教員研修では電話の取り方からきっちり指導します」と話す。年5回の定期試験の際には、生徒に先生を評価してもらう。アンケートの結果、「イエローカード」「レッドカード」という結果が出た場合は、改善の計画を立てさせ、結果を後日確認するという。
研修旅行も、なりたい自分を見つける機会のようだ。たとえば、中高一貫の生徒は中2と中3、高1の3回、アジア、米国、欧州へ研修旅行を実施する。博物館や美術館を見学したり、現地の学生と交流したりして刺激を受けて帰ってくる。米国では米航空宇宙局(NASA)やボーイング社なども見学する。ベトナムで自分たちより恵まれない環境にいるにもかかわらず、強い向上心で学ぶ同世代に出会い「自分もがんばる」と言い出した生徒もいたという。
難関大への進学も定着
不登校に対応しているのも同校の特徴だ。入学試験で合格基準に達していれば、欠席日数が多くても入学を認める。「子供は環境の変化で変わることがある。須磨で再スタートすればいい」と西氏はエールを送る。入学後に登校できなくなっても、自宅学習という道があるのだという。
共学にしてから20年、この間の須磨学園の進学実績の伸びは目覚ましい。定員の半分ほどしか生徒が集まらなかった学校だったのに、現在は国公立大学や医歯薬系学部、早稲田大学や慶応義塾大学など難関私立大への進学も定着した。19年度入試では、東京大学に4人、京都大学に24人、医学部医学科に56人が合格した。
10年ほど前、一人の女子生徒が西氏にこう言ったという。「先生、私の偏差値は6年間で35も伸びたんです」。見るからに頭が切れるというタイプでもなかったが、毎日のように9時学に残って6年間がんばった。この生徒は難関国立大学の医学部医学科に進学したという。
須磨学園の卒業式で最も派手に泣くのは、生徒でも保護者でもなく、教師たちだという。その涙は、生徒の6年間をサポートしてきた「先生のモチベーション」の表れなのだろう。
(藤原仁美)