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著者に聞く 仕事の風景

惰性断つチャンス生かせ 引き継ぎ改革で生産性アップ 『引継ぎ』 宗澤岳史氏

2019/4/17

健全でスムーズな引き継ぎのコツは、意外にも「引き継がない」だそうだ。理想的なイメージは「長いOJT(職場内訓練)」。現役の担当者であるうちから日々の業務をチーム内に開示しておけば、人事が発令されてから慌てて引き継ぎメモを仕立てる必要はなくなる。業務日報や報告メールのような形で情報の共有を進め、普段から文字化しておけば、後任はキャッチアップしやすくなる。「契約の更新忘れといった手痛いミスを避けるには、担当者が業務を抱え込まないルールづくりが望ましい」と、宗澤氏は「走りながらの引き継ぎ」を促す。

いくら前任者のまねを試みても、違う人間なのだから完全なコピーは不可能だ。「前任者と同じようにこなさなければという気持ちを捨てれば、もっと楽に引き継ぎやすくなる。新参者ならではのアイデアや問題意識を発揮できるのは後任の特権」と宗澤氏は前任者をなぞらない引き継ぎを推奨する。

後任の才覚を存分に生かすには、前任者に余計な口出しを許さないルールが求められる。東芝の決算や日産自動車のトップ報酬などでも「暗黙の了解」が長く保たれたことが問題を複雑にしたと指摘されている。「健全な意識を持つ後任が悪しき慣習を引き継がないせいで、組織から弾き飛ばされるような状況をつくってはならない」と、宗澤氏は警告する。

■転職増加時代にこそ重要な情報共有

「あの人がいないと、仕事が回らない」といった属人的な構造をつくりたがる人にペナルティーを与える仕組みはチーム内の業務分担や情報共有につながる。「個人商店型の業務構造は継続しにくい。転職が当たり前になった現代ではノウハウが社内に残らなくなるリスクも大きい」(宗澤氏)。個人は手柄を主張したがるものだが、業務の私物化に結びついてしまいがちでもある。「積極的な共有を業務成績として評価する人事考課制度が望ましい」と、宗澤氏はノウハウや知見が社内に残る制度を提案する。

有能な働き手がナレッジや人脈を蓄えてから転職すると、それまでの勤め先は実質的に空洞化しかねない。転職増加時代に日本企業が直面する課題だ。後任の発想を生かせず「今まで通りにやって」と求める職場は、意欲の高い働き手から愛想を尽かされてしまいやすい。「有能な人ほど、勤め先から自分への期待が低いとがっかりして辞めてしまう。前例踏襲式の引き継ぎは後任が落胆したり、意欲を失ったりする悪影響がある」と宗澤氏はみる。優れた人材をつなぎ留めるためにも、だめな引き継ぎを「引き継がない」ことは全社的な重要テーマになっているようだ。

宗澤岳史
ソシオテック研究所 サイエンティスト・プラクティショナー。1978年北海道出身。早稲田大学で博士号を取得(Ph.D)。専門は認知行動科学、臨床心理学など。複数の研究機関、大学で研究員、教員として勤務。コンサルティングの実務経験を積み、ソシオテック研究所で人材育成にかかわる研究や商品開発に取り組んでいる。著書に『DEAR』『KONJO 成長と成功の原理原則』など。

生産性を3倍に跳ね上げる 引継ぎ Change & Education

著者 : 宗澤 岳史
出版 : プレジデント社
価格 : 1,620円 (税込み)

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