東京五輪が広がるきっかけ ピクトグラムって何?

3月には2020年東京五輪のスポーツピクトグラムが発表された
3月には2020年東京五輪のスポーツピクトグラムが発表された
イチ子お姉さん 駅や公共施(し)設に行くと、いろんなマークや記号が並んでいるよね。ピクトグラムというのよ。トイレや非常(じょう)口のことだと一目で分かるよね。
からすけ 絵やイラストを使っているので、最近増えている外国人旅行者にも分かりやすそう。来年の東京オリンピックでも使われるらしいね。

絵で案内 分かりやすく

からすけ ピクトグラムってあまり聞かない言葉だね。

イチ子 「ピクト」はピクチャーの略で、絵のこと。グラムは「書く」という意味があるの。絵文字とか、図記号と呼ばれることもあるわ。文字による説明がなくても、ぱっと直感的に理解できるのが特徴(ちょう)よ。

からすけ いつごろから始まったの。

イチ子 絵で伝(つた)えるという方法の歴史は古いけど、広がったのは55年前の東京オリンピックがきっかけなんだ。当時は海外旅行も珍(めずら)しかった時代だよね。その日本で国際的な大会が開かれ、90カ国以上の選手団や観戦のお客さんが海外からやってくることになったの。その頃(ころ)の東京は案内板といっても「お手洗い」や「食堂」など、日本語で書いたものが大半。これでは、海外のお客さんは分からないよね。そこで、どの国の人でも分かるように意味を絵で伝えるピクトグラムを作ったんだ。

からすけ へえー。お父さんが生まれる前の話だね。

イチ子 オリンピックに合わせて作ったのは40種類(るい)ほどだったけど、これが日本から世界にピクトグラムが広がるきっかけになったの。例えば、男女のシルエットで表すトイレのマーク。よく見かけるけど、当時の図案(あん)が元になっているのよ。

柔(じゅう)道や水泳、陸上など競(きょう)技種目を示す絵文字を作ったのも東京オリンピックが最初だったの。分かりやすいと評判で、その後もオリンピックごとに新しいデザインが取り入れられるようになったの。最近、来年の東京オリンピックで使われる競技ピクトグラムが決まったって、新聞に出てたよね。

からすけ 道路には交通標(ひょう)識があるし、商品やお店には企業のロゴマークが入っているよね。あれもピクトグラムなの。そういえば、プレミアムフライデーのマークもあったな。

イチ子 プレミアムフライデーを覚えてるなんて、中学生にしては物知りだね。でも、交通規制や横断歩道などの交通標識は国によって違(ちが)うでしょ。ロゴマークも、外国の人がその企業を知っているとは限(かぎ)らない。特定の人にしか伝わらないから、ちょっと違うかもしれないね。ピクトグラムで重要なのは、ユニバーサルデザイン(キーワード)という考え方なの。

からすけ ユニバーサル?

イチ子 普遍(ふへん)的という意味よ。国籍(せき)、性別、年齢(れい)、障害のあるなしなどにかかわらず、できるだけ多くの人に使いやすく分かりやすくという発想。公共施設や鉄道の駅、空港、商業施設などの設計に取り入れられるようになり、案内表示としてピクトグラムも広がったんだ。言葉や文化やハンディキャップを超(こ)える案内表示というわけね。

最近ではレストランのメニュー表にも取り入れられているわ。牛、豚(ぶた)、鶏(とり)や落花生などアレルギーの原因になったり、宗教上の理由などで口にできない人への配慮(りょ)ね。これも、日本に来る外国人が増えたからよ。

JISに登録、デザイン統一

からすけ じゃあ、世界共通なんだ。

イチ子 そうではないの。実は、日本国内でもさまざまなデザインがあるんだよ。例えば、電車の優先席の表示は、鉄道会社によって少しずつ違っているわ。バラバラのままだと混乱するから、外国人観光客がたくさん来日する2002年のサッカー・ワールドカップ(W杯)日韓(かん)大会に合わせて、代表的なデザインが日本工業規格(JIS=キーワード)で決められたのよ。いまは150種類以上がJISに登録されているわ。色にも大まかなルールがあって、目立つ色の赤は禁止や危険を、黄色は注意、緑は安全や避(ひ)難を表すことが多いんだよ。

<キーワード>
ユニバーサルデザイン すべての人のためのデザインのこと。年齢(れい)や障害のあるなし、国籍や体格などにかかわらず、多くの人にとって分かりやすく使いやすい工夫をする手法を意味する。サインや記号だけでなく、建築や工業製(せい)品などの分野でもこの考え方が取り入れられている。
JIS Japanese Industrial Standardsの略語で、正式名は日本工業規格。製品の種類・寸法や品質・性能、安全性などの規格を法律に基づいて定めている。2002年に案内用図記号(ピクトグラム)の規格化が始まった。五輪開催(さい)に向け、無線LAN、ヘルプマークなどが追加された。

からすけ ピクトグラムの統一は、おもてなしの一環(かん)というわけか。

イチ子 それだけじゃなくて、防災にも役立つの。2004年にはスマトラ沖地震(しん)の津(つ)波被害がきっかけになって津波に関する図記号がJISに追加されたわ。ピクトグラムなら危険地帯や避難場所を分かりやすく伝えられるよね。

からすけ 世界共通になればいいのにね。

イチ子 世界では国際標準化機構(こう)(ISO)が規格を統一しているので、JISもそれにそろえようと定期的に見直しをしているよ。からすけは緑色の人が走って逃げる非常口のマークを知っているかな。あれは日本人デザイナーの作品なんだよ。1987年にISOに登録されて世界標準になったわ。

からすけ あのマークが外国でも採用されているのなら海外旅行に行っても安心だね。

■無数の人の知恵で創造

豊島岡女子学園中学高等学校の神谷正昌先生の話 少し街を歩けば、転んだり、頭を打ったり、つまずいたり、はさまれたりした人をかたどったピクトグラムを目にすることができます。それらは転倒(とう)、落下などの危険性を表しております。これに注目して「ピクトさん」と呼んで、事例を募(ぼ)集して紹(しょう)介する団体もあり、関連書籍(せき)も出版(ぱん)されています。
それらによると、ピクトさんは自己を犠(ぎ)牲にしながら危険があることを周囲に知らせており、その姿が痛々しくかわいそうな存(そん)在なのに、よく見るとコミカルな印象(しょう)も受けます。興味深いのは、これらが誰(だれ)か一人によるデザインが固定したものではなく、たくさんの人によって多様なバリエーションが作られて、支持されていると考えられることです。実用性があり社会に浸透(しんとう)していくものは、時として数多くの人の知恵が加えられることによって、創造されていくのでしょう。

[日本経済新聞夕刊2019年4月6日付]