談志いわく「銭湯は裏切らない」 思い出の豊かな時間立川談笑

写真はイメージ=PIXTA
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思うところあって、銭湯の話をしてみますね。思い入れは深いんだけど、語る資格がない気もして実はちょっと後ろめたいのですよ。というのも、いまは銭湯に通ってないから。昔はずいぶん通ったもんなのにねえ。

ええ、そもそも私自身は東京の下町の生まれで、暮らしていた木造アパートはトイレ・炊事場は共同で、もちろん風呂なしの銭湯通い。

「赤ん坊の頃、湯船につけてやると気持ちよくなっちゃって。ぷりぷりぷりってうんちが出ちゃうんだ。そいつを周りに気づかれないように手ですくって……」。「子別れ~昭和篇」(古典落語「子別れ」を、昭和の話として作り直した私のオリジナル作品)でのこのセリフは、私の実体験です。もちろん、ぷりぷりしちゃう立場としての、実体験。わはは。あんまり、威張れたもんじゃあない。

そんな私も今や風呂付きのマンションに住まいしておりますよ。ちょいとひねるとシャワーからいくらでもお湯が出てくる。あれは、何をひねってるんだ? 蛇口じゃないね。水栓とか言うのかな。いや、ここはどうでもいいか。

昭和から平成に入って銭湯は次々となくなったのは、皆さんご存じの通り。そんなご時世でも、地域に愛されて持ちこたえている銭湯、あるいは新しく魅力を打ち出すことに成功した銭湯など、いろいろとあるでしょう。ただ少なくとも、我々日本人全体の生活そのものがかつてと大きく変わって、銭湯の意味合いが変わったのは間違いない。あー、この先ぐちゃぐちゃと理屈をこねたくなるけど、今回はヤメ! ただひたすら散漫な思い出話に終始することにします。

あの取材をしたのはもう十数年も前のことか。おぼろげな記憶をたどりつつの話です。銭湯の壁に絵を描く仕事に密着したことがあります。都営住宅から軽トラで朝早くに出発して。作業はひとり。明るく静まりかえった銭湯の光景が、新鮮でした。養生を施して、ペンキを塗る、乾かす、こっちを塗る、乾かす。職人の日常がたんたんと過ぎていきます。

師匠・談志の背中を流す

そして途中の休憩時間が楽しかった。まだ浅い夏の、明るい脱衣場でね。撮影スタッフもみんなあっちでゴロン、こっちでゴロンと床に寝ころんでる。天井の大きな扇風機プロペラが穏やかに回っているところに、救急車のサイレンが遠くに聞こえたり聞こえなかったり。あれは私の人生の中でベストいくつかに入る、豊かな時間でしたねえ。

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