事故はオフィスで起きている 労災をどう防ぐ産業医・精神科専門医 植田尚樹氏

まず、以前にも人がぶつかることがあったにもかかわらず、何の対策も取られていなかったことです。「ドアの開け閉めに注意」とか「向こう側に人がいます」といった張り紙をするだけでも注意喚起になります。

おそらく、その部署の人たちは以前から気を付けていたので、わざわざ張り紙をする必要はないと考えたのでしょう。しかし、最近は中途採用や派遣社員の雇用が増えています。初めて部屋を訪れた人にもわかるように表示すべきでした。Dさんの事故を受け、ようやくドアの両側に張り紙をしました。

張り紙をするだけでも注意喚起になる=PIXTA

2つ目は段ボール箱を積み上げていたこと。古い資料を捨てずに放っておいたのか、必要なのに保管場所がなくて置かれていたのか。いずれにしても、資材の保管方法がずさんだと言わざるを得ません。決まったルールに基づいて資材を保管しないことは今回のような事故につながる恐れがあるだけでなく、効率的な業務の妨げにもなります。

もう一つは、ドアの構造です。一般的にはドア一面が板になっていて向こう側が見えないものが多いのですが、一部でもすりガラスにしておくと人影が見えます。この会社では縦に細長くスリットの入ったドアに入れ替えました。狭いオフィスでは難しいかもしれませんが、工場や店舗では横スライド式ドアを採用する会社もあります。

このほかにも、オフィスで事故につながった例としては、高い場所にある荷物を取ろうとして荷物が頭に落ちてきてけがをしたケースがあります。執務用の回転いすに乗っていてバランスを崩して倒れることも考えられます。脚立を用意しておけば、こうした事故は防ぐことができるでしょう。

ながらスマホで骨折も労災

また、社内で歩きながらスマートフォン(スマホ)を見ていて階段を踏み外し、骨折した事例もあります。業務でスマホを使っていたということで、労災になりました。最近はスマホで社内の情報を共有することが増えています。便利ではありますが、従業員への注意喚起も必要になっています。

オフィスでの労災事故について全般的に言えるのは、事故が起こった後のフィードバックが不足しがちなことです。要は教訓を生かし、再発を防止する仕組みがきちんと整っていないことが多いのです。工場に比べて事故が起きる可能性が低いことや、起きた場合も重大な結果になりにくいことが要因と考えられます。

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