日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/4/15

米デューク大学教授で、海洋保全技術が専門のダグ・ノワチェク氏は、クジラが船の音を聞き取っていることは間違いないとしながら、相次ぐ異常死には他の要因も関わっているかもしれないと話す。クジラやイルカの行動と音響生態学を研究するノワチェク氏は、餌をとっていたり、船の航行音が絶えず聞こえていたりすると、クジラは混乱に陥る可能性があるという。船から警報音を出してはどうかという議論も以前からある。ちょうど車のドライバーが使うシカよけの警笛のようなものだが、ノワチェク氏によれば、効果は保証できないとのことだ。

「クジラは海で最大の生きものです。自然では、おとなのザトウクジラが恐れるものなどいません。だとすれば、聞き慣れない大きな音が聞こえたとしても、それを『聞き慣れない大きな音』以上の何かだとクジラが思える理由はないのです」とノワチェク氏は問う。「要するにクジラを船の音に慣れさせようという話にしかなりません。クジラからしてみれば1回でも船に衝突すれば、それで終わりになってしまいます」

米国で3番目に大きな港であるニューヨーク・ニュージャージー港の広報担当者は、クジラと船舶の遭遇に関する質問について、海上交通路を管轄する沿岸警備隊を引き合いに出した。沿岸警備隊は、全ての船に対してNOAAが定めた規則違反の取締りを行っているという。船舶はあらゆる海洋哺乳類から約91メートル以上離れていなければならず、クジラが近づいてきたときはエンジンをニュートラルにしなければならない。船の乗員が「絶滅危惧種のクジラを目撃した場合、またはクジラと衝突した場合」は報告が求められる。

NOAAによれば、最近の異常死事例の中で最もザトウクジラの座礁が多かったのがニューヨーク州(17件)だった。これに続くのがバージニア州とマサチューセッツ州だ。発見された座礁クジラは、ほぼ全頭が死んでいたと研究者たちは話す。漁具にからまったクジラが自由になり、泳いで沖へ戻り、回復できるほど健康なケースは例外的でごくわずかだそうだ。

クジラの座礁問題に取り組むロングアイランドのボランティア団体、「大西洋海洋保全協会(Atlantic Marine Conservation Society)」の設立者ロブ・ディジョバンニ氏は、沿岸の航路でクジラが好むメンハーデン(ニシンの一種)が増えていると話す。このような航路が、クジラが立ち寄って餌を取る「休憩所」になっているとのことだ。

「人間のほうが、『クジラがいる』ということを意識するべきです」とディジョバンニ氏。「スクールゾーンでは誰でも車のスピードを落として運転しますよね。速度を落としたからといって、生活に大きな支障が出ることなどありません。同じようにすればいいのです。それで、クジラのためにもなるのですから」

NOAAによれば、2019年に入ってから現在までに米国で座礁したクジラは3頭。うち1頭はバージニア州だった。3頭はいずれも死んでいた。

バージニア水族館・海洋科学センターのホエールウォッチング船「アトランティック・エクスプローラー」号の船長、マーク・セダカ氏は、NOAAのガイドラインをすべて守っている。ザトウクジラが海面に出ているときは一定時間を置いて離れる、クジラが近づいてきたら船のエンジンをアイドリングさせるなどだ。特徴的な背びれのクジラが撮影されると、すぐにバージニア水族館のボート事業コーディネーター、アレクシス・ラボン氏のもとに送られ、把握済みのクジラのデータベースと照合される。

ラボン氏が確認した幼いクジラは、その日の午前と1月初めの計2回目撃されていた。地元のホエールウォッチングボートやレクリエーション用ボートが、海面に出たクジラの周囲に居残る中、セダカ氏はアトランティック・エクスプローラー号を北へ向け、航路でクジラの噴気が新たに報告されたところを目指した。コスティディス氏によると、デラウェア湾の浅い海は、より深い航路へクジラを導く狭い通路のようになっているという。

コスティディス氏は、すぐにできる唯一の対策は航行量を減らすことだが、これも「現実的な解ではない」と話す。一方で、スピードを落として航行することには意味があると、コスティディス氏は考えている。

「ある程度は、ですがね」とコスティディス氏は言う。「船の過密な航行と、大都市のすぐ近くにいる沿岸のクジラは、共存できないだろうと私は思います」

(文 JASON NARK、訳 高野夏美、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年3月25日付]