1日の疲れ癒やす高級ピノ ハーフボトル6本飲み比べ
エンジョイ・ワイン(10)
たまには頑張った自分へのご褒美に、いつもより少しだけ高級なワインで一日の疲れを癒やしたい。そんな気分にぴったりなのが、品ぞろえの充実した高級スーパーのワインだ。その中から、食事との相性がよく、かつ飲み切りサイズで値段も手ごろなピノ・ノワールのハーフボトルを選び、ランキングした。
ピノ・ノワールは「ワインにはまると最後はピノ・ノワールに行き着く」ともいわれるほど、多くの愛好家を魅了する赤ワイン。かの「ロマネ・コンティ」も品種はピノ・ノワール。最高級シャンパンの多くもピノ・ノワールが使われている。その特徴はグラスから発散する強烈で華やかな香りと、口に含んだときの酸味と果実味のバランス。重すぎない中庸なボディーと、ほのかに感じるダシのような旨味(うまみ)は食事とも合い、繊細な味わいを好む日本人向きでもある。
ただ、上手に育てるのが難しい品種ともいわれ、それが生産量や小売価格にも影響。また、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなど他の人気赤ワイン品種と比べると酸味が強いため、ワインを飲み慣れていないと「酸っぱい」と感じることもある。
今回評価した6本は都内の紀ノ国屋アントレと成城石井の店舗から3月下旬に購入。ワインの資格を持つ愛好家5人がブラインドテイスティングで評価し、5点満点で点数を付けた。以下、高得点順に紹介する。点数は5人の平均点。値段は税込み購入価格。
1、2位はハイレベルでの接戦だった。結果、1位は仏ブルゴーニュ産。「ピノ・ノワールといえばブルゴーニュ、ブルゴーニュといえばピノ・ノワール」といわれるほど、同地域は高級ピノ・ノワールの一大産地。ただ、生産者が多いだけに、値段の割には凡庸なワインも少なくない。
クロワ・サンジャックは果実の凝縮感が際立ち、5人全員が高く評価。シニアワインエキスパートで、薬剤師としての専門知識を生かしたワイン情報をブログで発信している鈴木明人さんは「ラズベリーやフランボワーズなどの香りが特徴的で、少し甘い香りを感じる。タンニン(渋味)も酸も柔らかいので、ピノ・ノワールをあまり飲んだことがない人でもおいしく飲めるのではないか」とコメント。さらに、合わせる料理として、家でも簡単に作れる、漬けマグロやケチャップ味のチキンライスを提案した。
ワインスクールの講師も務めるシニアソムリエの内田一樹さんは、「果実や花の香りがワイン全体を優しく包み込んでいるイメージ。仕事で疲れたときに飲むと、心地よく感じ、心身が癒やされるようなワイン」と印象を語った。
僅差の2位は、ニュージーランド南島、ワイパラ地区のピノ・ノワール。ニュージーランドは白ワインのソーヴィニヨン・ブランが世界的に有名だが、ピノ・ノワールの評価もうなぎ登りだ。
シニアワインエキスパートの資格を持つ会社員の齋藤稔さんは、「熟した果実の甘さと酸味のバランスが素晴らしく、ピノ・ノワールらしい旨味もしっかりある」と高評価。元航空会社の客室乗務員でシニアソムリエの市川朋依さんは、「エレガントでかぐわしく、女性の好きそうなワイン」とコメントした。
シニアワインエキスパートで会社員の太田有沙さんは、「ピノ・ノワールらしい華やかな香りや、口に含んだときの果実の凝縮感、シルキー(なめらか)さを感じる素晴らしいワイン」と論評。「ワインだけでも楽しめるが、2杯目からはやはり食事と合わせたくなる」と述べ、合わせる料理として、甘じょっぱい照り焼きソースやべっこうあんを使った料理、たれ味の焼き鳥などを挙げた。
コノスルはチリワインを代表するブランド。チリワインはいわゆる「安旨(やすうま)ワイン」として知られるが、このワインも6本の中では断トツで安い。チリの安旨ワインは、フルボディーで果実味十分、酸味は控えめが特徴だ。
内田さんは「飲みやすいワインだが、ピノ・ノワールのチャーミングさがない」と指摘。太田さんも「こってりとしていて、ピノ・ノワールっぽい華やかさや繊細さがあまり感じられない」と感想を述べた。コスパのよい赤ワインなら何でもよいというのであれば、おすすめの1本だが、ピノ・ノワールを飲みたくて購入したなら、少しガッカリするワインかもしれない。
手ごろな値段とは必ずしもいえないが、カレラは「カリフォルニアのロマネ・コンティ」との異名も持つほど、カリフォルニアワインを代表する有名なワイナリー。日本での知名度も高いので、リストに加えた。
カリフォルニアワインは、果実の凝縮感とアルコールの高さから来る強烈な口当たりに加え、バニラやココナツ、コーヒーリキュールなど樽(たる)由来の甘い香りを特徴とするものが多い。ピノ・ノワールも欧州のものとは味わいが全く違い、好き嫌いが分かれる。
市川さんは「樽の香りが非常に強く味わいもパワフル過ぎて、ピノ・ノワールの良さが消えてしまっている。個人的に樽香はあまり好みではないので、それほど飲みたいとは思わない」と辛口の評価。
値の張る高級ワインは一般に、じっくり味わうのに向いているが、このカレラは「女子会やバーベキューパーティーなど、カジュアルなシーンに適したワイン」(太田さん)のようだ。
「ルイ・ラトゥール ブルゴーニュ キュヴェ・ラトゥール2016」2.8点 紀ノ国屋 1404円
5位タイの2本は、いずれもブルゴーニュワイン。ジョセフ・ドルーアンもルイ・ラトゥールも名門ワイナリーだ。最下位とはいえ、3、4位との差はほとんどない。むしろ、「ラズベリーなどピノ・ノワールに特徴的な赤い色の果実の香りを感じる」(齋藤さん)と評価する声も多かった。
同じブルゴーニュで1位になったクロワ・サンジャックとの決定的な違いは、果実感の強弱。1位と比べると、5位は果実感が弱かった。ただ、鈴木さんは、「ルイ・ラトゥールはダシの風味を強く感じ、マグロのカマ焼きや、スーパーで売っている冷凍カモのコンフィと合う」と料理との相性を指摘した。
一口にピノ・ノワールといっても、味わいは様々。いろいろなピノ・ノワールを試し、自分に合った一本を見つけてほしい。
(ライター 猪瀬聖)
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