「本質」を理解すれば仕事は進む 良い思考力の鍛え方米澤創一著 『本質思考トレーニング』

最も陥りやすい「思考のショートカット」

最も頻繁に登場し、本質的な問題解決を妨げるワナは「思考のショートカット」だと著者は指摘します。例えば「東大生の50%近くが小学生時代にピアノを習っていた。小学生全体では20%強がピアノを習っている。このことから、ピアノを習うことは、何らかの学力向上効果がある」という記事があったとします。

著者は、何の検証もなくこの記事をうのみにするのは危険だと指摘します。この記事の本質は「ピアノを習わせられる程度に親が裕福で子どもへの投資に積極的であるからこそ、東大に進学する価値観が醸成された」という点にあるかもしれないからです。

因果関係とは文字通り、その因果、つまり原因と結果が明確にある関係を指します。先ほどのピアノの例はこの原因と結果を取り違えている例です。
一方、相関関係とは、一方が変化すればもう片方も変化するという2つの物事の関係のことです。必ずしも因果関係があるとは限りません。
因果関係がなくても相関関係が見られることはよくあります。偶然の相関関係は多いのですが、それをあたかも意味があるように解釈してしまうのが人間の脳のクセの一つでもあります。
(トレーニング1 問題解決を妨げる9つのワナを知る 70ページ)

「正しく伝え、考える」。このことは、ここ数年話題になっている「フェイクニュース」にひっかからないためにも必要な能力です。誰もが情報を発信できる世の中で、賢く生きるために身につけておきたい考えが詰まった一冊です。

(雨宮百子)

◆編集者からひとこと 栗野俊太郎

アクセンチュアに約30年勤め、現在は慶應義塾大学大学院で教べんをとる著者の米澤さん。打ち合わせの中で、仕事でもプライベートでも本質的な課題解決につまずく人が多いことについて「課題解決の前に、ワナにハマりがちな人が多い」「そもそも解決する気がない人もいる」というコメントをいただきました。

このやり取りが、本書の骨子になりました。本書は、現状を示すデータなどを素直に認めない「現状黙殺」、過去に経験した問題と同じだと思い込む「思考のショートカット」、本質的に問題解決するつもりがない「他人事シンドローム」など誰もが無意識にハマる9つのワナという切り口で本質を意識する習慣を鍛えることができます。

深く考えずに前例踏襲で作業を進めてしまったり、周囲に流されて施策の方向性を決定してしまったり、目の前の仕事に慣れてきた頃に効果的な一冊です。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。掲載は原則、隔週土曜日です。

本質思考トレーニング

著者 : 米澤 創一
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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