1万円台の完全無線イヤホン 新興ブランドも音侮れず
「年の差30」最新AV機器探訪
スマートフォン(スマホ)とイヤホンをつなぐケーブルだけでなく、イヤホンの左右をつなぐケーブルもない「完全ワイヤレスイヤホン」。次々に新製品が登場しているが、無視できない存在になってきているのが、BOSEやソニーといった知名度のあるオーディオブランドではない新興ブランドだ。専門店によれば、中には安価で性能の良い製品も多くあるという。そこで専門店の完全ワイヤレスイヤホン担当者が薦める実勢価格1万円台の3機種を、平成生まれのライターと昭和世代のオーディオビジュアル評論家が聴き比べた。
老舗ブランドに追随する新興勢力
小沼理(27歳のライター。以下、小沼) 今回は秋葉原にあるイヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」に来ています。
小原由夫(54歳のオーディオ・ビジュアル評論家。以下、小原) 平日の昼間だというのに、すごい人ですね。どのブースにもびっしり人が並んでいて、しかもみんな真剣に試聴している……。
小沼 取り扱っているイヤホンの量も尋常じゃないですよ。200以上のブランドを扱っているそうです。この店舗で完全ワイヤレスイヤホンを担当している横尾さんに、オススメの3機種を選んでもらいました。
横尾泰輝(以下、横尾) よろしくお願いします。
小沼 横尾さんに選んでもらったのはGLIDiC(グライディック)「Sound Air TW-7000」、AVIOT(アビオット)「TE-D01b」、NUARL(ヌアール)「NT01AX-BG HDSS」。すべて日本のブランドです。小原さんはこの3ブランドを知っていましたか?
小原 どれも初めて聞く名前でした。僕はいわゆるオーディオブランド以外の製品は警戒してしまってすぐに手が出ないのですが、売れ行きはどうなんでしょう。
横尾 3機種ともよく売れています。こうした新興ブランドは、知名度のあるオーディオブランドに追随する勢力になっていますね。
小沼 価格も1万円台と、この連載で取り上げてきた製品に比べると安いですね。
横尾 「e☆イヤホン」での完全ワイヤレスイヤホンの売れ筋価格帯は1万5000円前後なので、オーディオブランドのイヤホンは少し高いかもしれません。傾向として、オーディオブランドのイヤホンを買う人はブランドで指名買い、それ以外を買う人は先に予算があって、その中で試聴しながら決めていくことが多いです。
小原 ブランドにこだわらない人は、シビアにコストパフォーマンスを見ているということですね。
「Sound Air TW-7000」/カスタムIEMメーカー監修
小沼 では実際に製品を見てみましょう。まずはGLIDiC「Sound Air TW-7000」です。これはどんなイヤホンなんでしょうか?
横尾 2018年12月に発売された機種で、「カナルワークス」というライブなどで使うカスタムIEMメーカーが監修しています。
小沼 カスタムIEMメーカーってなんでしょう?
小原 以前に取材したFitEar(記事「高音質で耳にも優しい オーダーメードイヤホンを作る」参照)のように、耳型を採取してオーダーメードのイヤホンを作るメーカーですね。IEMは「インイヤーモニター」の頭文字を取ったものです。
横尾 そのため、どんな人の耳にもフィットしやすくなっているのがポイント。音は中低音がソリッドで聴きやすく、連続再生時間も9時間と長いのも特徴です。
小沼 僕と小原さんは事前に3機種を聞き比べていますが、小原さんは使ってみていかがでした?
小原 ペアリングが少し途切れやすいと感じましたが、音は3機種の中で最も好みでした。S/N比(信号内の雑音の比率)がとても良いし、トーンがややソリッドですが、全体的に整っていました。クラシックやジャズ、ポップス、ロックなど、どんな楽曲を聴いても心地よく聴くことができましたね。
小沼 中低音の聴きやすさは感じましたが、僕の試聴環境だと長時間聴いていると少し疲れそうだなと感じました。イヤホン本体での再生・停止の操作が、ボタンを押してから一拍空くのも残念。でも装着時のフィット感やケースのサイズが小さいのは魅力的でした。
横尾 「Sound Air TW-7000」は若い男性に人気で、男性ボーカルのポップスが心地よく聴けます。あとは、本体のみの操作で外音取り込み機能が使えるのが便利です。
小沼 外音取り込み機能は便利ですね。他のメーカーでアプリを使って外音取り込み機能が使えるものがありましたが、それだととっさの対応が難しい。コンビニの会計時や、電車のアナウンスを聴きたい時に便利です。
小原 完全ワイヤレスは頻繁に外すとそれだけ落とす危険も高くなりますからね。
AVIOT「TE-D01b」/ケースを使えば81時間
横尾 続いてAVIOT「TE-D01b」。日本のオーディオのエキスパートが、様々なジャンルの楽曲を1000曲以上聴き込んでチューニングをしたというイヤホンです。中低音がしっかりしていて、高域がフラットに伸びる、オールジャンルで聴きやすい音になっています。
小沼 低音がしっかり出ていて、迫力のある音でした。高音も細かな音までしっかり表現してくれて、聴いていて楽しかったですね。
小原 私は低域が盛りすぎに感じたかな。クラシックやジャズを聴くには、やや低域過多。でもロックやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)が好きな方には良いのではないでしょうか。ペアリングは安定していたと思います。
横尾 中低音がしっかりしているので、ボーカルがくっきり聞こえます。イヤホン本体が小さくて軽いこと、再生時間が9時間、ケース併用で81時間と長いのも特徴ですね。
小原 81時間はすごいですね! ケースが大きいなと思ったけど、それだけのバッテリーがあるなら納得です。
小沼 ケースは大きいですが、薄型なのでポケットに入れてもそこまで気になりませんよね。ケースの大きさにはうるさい僕ですが、これはアリだと思いました。
NUARL「NT01AX-BG HDSS」/音を立体的に
横尾 最後がNUARL「NT01AX-BG HDSS」。「HDSS(High Definition Sound Standard)」という、音が立体的に聴こえる技術を採用した機種です。中高域が透き通った音で、女性ボーカルや管楽器の音をきれいに表現してくれます。
小沼 たしかに、音の広がりはものすごく感じました。
小原 うーん、僕は低域や中域が少しこもって聴こえたかな。クラシックやジャズなど、アコースティックな音を聴く時に違和感がありました。他の曲を聴く場合は違うのかもしれませんが。
小沼 プロダクトとしては、ケースに厚みがあって、ポケットの中でゴロゴロしました。ズボンも膨らんでしまうし、普段ポケットに入れている身としては気になります。ただ、イヤホン本体はつけ心地が良く、デザインも品がありますね。
横尾 そうですね。メタリックで、あまり他にない上品なデザインです。どちらかというと女性からの人気が高い製品ですね。
チップの進化がイヤホンを変えた
小沼 3機種のスペックを表にまとめてみました。こうしてみて改めて思ったのが、どれも再生時間が長いですよね。これまで取り上げてきたイヤホンは、4時間や6時間が主流だったような……?
横尾 それは完全ワイヤレスイヤホンに搭載されているチップの進化が理由ですね。最新のチップは省電力性や接続の安定性が大幅に向上しているんです。
小原 チップが接続の安定性を左右するなら、機種によって途切れにくさは変わらないのでは?
横尾 製品ごとにアンテナの設計が違うので、それが差が出る一因かもしれません。もちろん使用する環境によっても左右されます。
小沼 東京などの都市圏と地方でも状況が違いそうですね。
「ガジェット感覚」で楽しむ
横尾 3機種を聴いてみて、小原さんと小沼さんのベストはどれでしたか?
小原 僕はGLIDiC。音が一番好みでしたし、サイズが小さいのも魅力的でした。
小沼 僕はAVIOTですね。ケースのサイズは大きいものの、薄型でデザインが今っぽい。しっかりした中低音も良いと感じました。でも、もう一つのNUARL含め、どれも思った以上にハイレベルでしたね。
小原 いい機会だから横尾さんに聞きたいんですが、オーディオ機器にこだわるような、いわゆるオーディオファンでも完全ワイヤレスイヤホンを買う人って増えているんですか。
横尾 はい。音にこだわりのある人で、完全ワイヤレスイヤホンに興味を持つお客さんも増えています。ピュアオーディオ好きだけど、完全ワイヤレスの売り場に来る人も、最近はよくいますね。純粋に音を追求するというより、ガジェット感覚で楽しんでいるみたいです。
小原 なるほど、ガジェットですか。それは新しい楽しみ方ですね。
小沼 ある意味、どれを選んでも大きく失敗はしないレベルまで品質が上がってきたからこそ生まれた楽しみ方かもしれません。これからも完全ワイヤレスイヤホンは盛り上がりそうですか?
横尾 今回紹介したようなブランドはサイクルも早く、数カ月単位で新製品が出ます。チップもまた入れ替わりますし、夏に向けて新たな製品が発表されると思いますよ。消えていくものもありますが、今はそれ以上に新しいブランドが続々と誕生しています。目が離せない分野ですね。
◇ ◇ ◇
完全ワイヤレスイヤホンの市場規模は年々拡大している。調査会社GfKジャパンの調査でも、完全ワイヤレスイヤホンの販売本数は前年の3倍以上と大幅に伸長している。その背景には、今回紹介したような新興ブランドの台頭があった。
こうしたブランドのイヤホンは玉石混交だが、比較的安価で、種類も豊富。横尾さんも「店頭でつけ心地を試したり、自分の使っているスマホや音楽プレーヤーを持っていって好きな曲を聴いてみたりすることが大切」とアドバイスする。じっくり探してみることで、自分に合ったイヤホンが見つかるかもしれない。
1964年生まれのオーディオ・ビジュアル評論家。自宅の30畳の視聴室に200インチのスクリーンを設置する一方で、6000枚以上のレコードを所持、アナログオーディオ再生にもこだわる。今回の試聴で使ったアルバムは「交響曲第3番『オルガン』」(サン・サーンス)など。
小沼理
1992年生まれのライター・編集者。最近はSpotifyのプレイリストで新しい音楽を探し、Apple Musicで気に入ったアーティストを聴く二刀流。今回の試聴で使ったアルバムは『Outer Peace』(トロ・イ・モア)など。
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