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睡眠

質のよい睡眠はとれている? 測り方に医師も悩む

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/4/23

ナショナルジオグラフィック日本版

写真はイメージ=PIXTA

「質の良い睡眠をとろう」「運動で睡眠の質が向上する」など、巷間では睡眠の質に関する情報が多い。睡眠の質を自覚している人にとっては、その質を客観的に評価する方法を知りたいところだ。しかし、睡眠の質を数値で示すのは、我々専門家でも簡単なことではない。幾つか具体例を挙げて説明したい。

まず、同じような眠り方をしていても睡眠の質の感じ方に大きな違いがある。寝ている途中でたった1回目が覚めただけで「睡眠の質がとても悪い、苦しい」と感じて受診する患者がいる一方で、2、3回目を覚ましても「年を取ればこんなものだろ」と平然としている同年代の人もいる。同じことが、寝つきにかかる時間や総睡眠時間などについても言える。睡眠の質を評価する物差しが人の主観(自覚)にはそもそも存在しないのである。

では睡眠ポリグラフ検査などで睡眠の深さや長さを客観的に調べれば睡眠の質を正しく評価できるのか?

確かに健康な人で睡眠脳波を何度も測定すると、ぐっすり眠れた夜に比べて寝苦しかった夜では深い睡眠が減って中途覚醒が増えることが多い。つまり本人が感じる睡眠の質と客観データがある程度相関する。ところが睡眠障害患者ではこの関係性が曖昧になる。

例えば、慢性不眠症患者では自分で感じている睡眠(主観)と、睡眠脳波データ(客観)とが必ずしも一致しない。一致しないどころかトンデモなくかけ離れることがある。例えば自分では寝つくのに1時間以上かかったと感じても脳波上は10分程度で眠っていることもある(詳しくは「不眠症の本質は睡眠時間の誤認である」を参照)。

もう1つ主観と客観が乖離(かいり)する例を挙げよう。

ある研究により「バソプレッシン」というホルモンを高齢者に投与すると若者並みに深い睡眠が増えることが分かった。一般に年齢とともに深い睡眠は減るので、バソプレッシンには一種の睡眠の若返り効果があるように見え、不眠症治療薬として期待された。ところが、朝起きた高齢者に感想を聞くと熟眠感(主観)は改善しておらず、治療薬としての開発が断念された。

■主観と客観のどちらが大事?

「睡眠は脳を休めるためにあるのだから、脳波上間違いなく眠っている客観的睡眠の方が大事だろう」という考え方には一理ある。実際、客観的な睡眠時間が短い不眠症患者は、主観的睡眠時間だけが短い患者に比べて生活習慣病やうつ病のリスクが高いことも明らかになっている(「不眠症、あなたはどっちのタイプ? 治療法も別々」を参照)。ところが、医薬品の開発では睡眠の質の「主観的改善」も伴わなければ承認されない。客観的睡眠が改善していても主観的満足度が低いままだと日中の生活機能やメンタルヘルスの悪化が防げないからである。この両者を満たす医薬品の開発はかなり難しい。

睡眠の質を評価するのは基本的に本人。すなわち主観が大事なのだが、良し悪しを区別する具体的な数値を設定することはできない。また、「主観と客観、いったいどちらが大事なのか?」という問いに関する明確な答えは出ていない。「どちらも大事」というつまらない回答しか用意できないのである。

さらに、主観でも客観でもよいのだが、睡眠の質を評価するには「どの日の睡眠」を「どこで測定」すればよいかについても悩ましい問題がある。

まずは「どの日の睡眠」問題について。睡眠状態は日々大きく変動する。いったいどの日の睡眠をもって自分の平均的な睡眠状態と考えればよいのか? どの程度眠れなければ病的と判断すべきなのか? 実はしっかりとした基準は決まっていない。365日、毎晩眠れない不眠症の患者はごくごく少数派。不眠が何晩か続いた後で長めに眠れる夜が現れるパターンもあれば、多くの夜は眠れるが時折不眠が現れるパターンもある。そのため、不眠症の診断基準では「週に3日以上不眠があり、その結果として日中に不調を感じている」時に診断することになっている。そもそもこの「週に3日」という基準も明確な根拠があって決められたと言うより、専門家(エキスパート)の協議で大まかな指標として定められただけなのである。

最後の例として、これは患者をみるときの話だが、睡眠脳波を「どこで測定」すべきか問題について。

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