男性の育休義務化したら、職場が大進化 積水ハウス

顧客との接し方、根本から見直す

同じ職場の高林正明さん(41)は雰囲気の変化を実感。高林さんはそれまで子供の急な病気や学芸会など大切な行事のときでも、自身の休暇取得に罪悪感があったという。だが、飛高主任の育休取得を通じ、「周りの人も大切な日に休暇が取りやすくなった。仕事へのモチベーションも上がる」(高林さん)という。

1カ月間の育休を取得したことで、洗濯などもするようになった和田さん(兵庫県姫路市)

育休取得での生活体験から自身の営業スタイルが「激変」し、業務にプラスになった人も。「『我が社の住宅は本当に本当に質がいいですから』など、以前は猛烈にPRするだけの営業をしていました」。こう苦笑するのは姫路支店で住宅の営業を担当する和田慎吾店次長(35)だ。

和田さんは1歳の娘のため18年12月から1カ月の育休を取得。入社後の約13年で「これほど長期の休みは初めて」。最初の1週間は不安が大きく、会社支給の携帯電話を放せなかった。妻からは「なんで休みなのに携帯を持っているのか」ととがめられた。

やがて職場を離れる不安も減り、子供と向き合う時間が増えていった。「パパー。庭に鳥さんが来たよ。あの木にはこんな木の実がなるんだよ」。自宅での何気ないやりとりから、「家ってこんなにいいものなんだ」との思いを強くした。取得前は仕事に没頭するあまり、「ゆったりとした気持ちが持てる場所」という家が持つ価値を忘れかけていたと振り返る。

1月の職場復帰後。顧客との接し方、住宅の紹介の仕方を根本から見直した。顧客が求める「家」とは、どんなものなのか。子育て中と、親の介護をする世帯では重視する点も異なる。先方の生活様式に寄り添い、住みたい「家」を一緒にじっくり考える。育休で「家」の価値を再認識した自分だからこそできるスタイルと手応えを感じている。

男性の育休取得率、5%にとどまる

「積水ハウスの取り組みは、日本の男性による育休取得増加の起爆剤になるかもしれない」。こう話すのは、男性の育児参加を支援するNPO法人、ファザーリング・ジャパン(東京・千代田)代表理事の安藤哲也氏だ。

厚生労働省の17年度の調査では、育休の取得率が女性83.2%に対し、男性は5.14%にとどまる。政府は男性の取得率で20年に13%の目標を掲げるが、思うように上がらない現状がある。人手不足など、ビジネス上のマイナス面を危惧する企業が、乗り気にならないためだ。

安藤氏は「積水ハウスの事例の参考点は、業務面で取得した本人だけでなく職場の女性や同僚にもポジティブな結果が出ている点だ」と指摘する。積水ハウスで好事例がたくさん出てくれば「他の企業が追随する可能性は十分にある」(安藤氏)と語る。

取得広がる契機に~取材を終えて~

「うちの会社じゃ復帰してもポジションはないね。まあ、退職宣言と捉えますね」――。今回の積水ハウスの取材後、別のテーマで会った異業種の部長級の何人かに「男性の部下が1カ月以上の育休をとると言ってきたらどう思いますか」と質問してみた。冒頭のようなコメントが大半だった。多くは日本を代表する企業だったが、男性の育児休業には否定的な意見が多い印象だ。

一方、3歳未満の子供を持つ20~40歳代の男性正社員のうち、育児休業を利用したかったが利用できなかった人の割合は3割にものぼるという調査結果もある。育休を取得したいのに、職場の理解や体制がないため諦めるという男性も少なくないようだ。育児と家庭の両立を率先して進める積水ハウスで職務への好事例が広がれば、男性の育休取得が増える可能性が高い。

(飯島圭太郎)

[日本経済新聞朝刊2019年4月1日付]

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