新職場での心得 上司は「機能」、愚直に対話を
ダイバーシティ進化論(出口治明)
異動や昇進で今日から新しい職務に就く人も多いだろう。早く周囲になじみたくても、人づきあいは、そう簡単ではない。まずは諦めよう。人間のネットワークは結局、その人の魅力や持ち味による。時間をかけて地で勝負するしかない。
とはいえ、どんな職場であれ、その職場にいる人を知らなければ仕事はできない。あなたが管理職なら、一般論でいえば部下との飲み会やゴルフは有効かもしれない。ただ、僕自身は、就業時間外にマネジメントをするのは邪道だと考える。部下もゴルフや飲み会が好きならいいが、そうでない人には地獄だからだ。
むしろ勧めたいのは、1人30分など時間を決めて、部下と1対1のミーティングを持つこと。まずは相手の職務、過去にどんな仕事をしてきたのか、これから何をしたいかの3つを聞こう。これらキャリアの基本事項を押さえたうえで、職場の課題や自分に何を期待しているのか、相手の顔色を見ながら聞くといい。面白い意見を言ってくれる人や信頼できる人は必ず1人や2人は見つかる。自分なりに、その職場の地図が見えてくるだろう。
しかるべき相手とは2回、3回とミーティングを重ねるといい。誰が本当に頼りになるかが分かってくる。自分は他人とは違う。仮に前任者が高評価でも同じことはできない。どうしたら職場を楽しく面白くできるか考えよう。一般社員で異動したなら「仕事を教えてください」と素直に尋ね、職務の理解に努めよう。
仕事は時間内にするもの。あなたが女性で職場で少数派だとしても、仕事に必要な情報はオープンになっているはずだ。もし情報阻害を感じたなら率直に関係者にぶつけてみよう。
最近は年上の部下を持つ人も多い。といって気負う必要はない。上司は偉いわけではなく単なる「機能」だからだ。グーグルを見よ。人事データに国籍や年齢、性別の情報はなく顔写真すらない。これが世界標準だ。部下の年齢・性別・国籍などを意識せず、必要なことは淡々と尋ねればいい。
人間は難儀なもので、時間をかけてもらえないと相手に愛着がわかない。時間をさいてくれない上司に部下は反発する。1対1で意見を聞くことは、行為そのものが、相手を尊重しているシグナルになる。急がば回れ。職場のダイバーシティ(人材の多様性)が進もうと愚直に1対1を繰り返すことが何よりも有効だ。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2019年4月1日付]
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