やる気ある2割をまず動かす アステラス社長の組織論アステラス製薬 安川健司社長(下)

「でもイクスタンジの開発ステージは自社品より2~3年進んでいました。ここでイクスタンジを取らなかったら、他社に市場を取られてしまう。絶対に引かない覚悟で説得して回りました。心がけたのはデータを示すことです。説得する相手も科学者ですから、データを示せば化合物の性質は似たり寄ったりであることは分かります。そのうえで時間的な差を説けば、感情的には受け入れがたくでも最後には納得してもらえます。理由も示さず『ああせい、こうせい』というのは命令としてありがちかもしれませんが、人には伝わらないと思います」

全体の2割が動けば6割もなびく

山之内製薬時代には中堅社員で21世紀の会社像を語り合ったことも(2000年12月、手前右が安川氏)=アステラス製薬提供

――再生医療など「製薬」にとらわれず事業の領域を広げています。新規事業を育てる仕組みがあるそうですね。

「前任社長の畑中好彦(現会長)が導入したのですが、研修の一環として経営課題を与えてその解決に向けた提案を募る取り組みがあります。経営層が見て『気の利いた提案だな』と思ったら採用し、責任者は提案した本人にやってもらいます。このとき必ず既存の組織から独立させます。『そんなのは俺たちの仕事じゃない』などと言う人が必ず出てきて、事業開発が滞るからです」

「私はこれを『組織の免疫』と呼んでいるのですが、異物を排除しようとするのは人間のさがなので仕方ないと考えています。とりあえず独立してやらせてみて、いくつか成果が出てくると、冷ややかな目で見ていた人もだんだん隣の芝が青く見えてきて、参加希望者が増えてきます。そこで既存の組織に組み込めば、蓄積された知見や人材の力を使って成長できます」

――新規事業に限らず、組織のマネジメント全般に通じるような気がします。

「私の経験上、組織が物事を実行する際、2割の人間は前向き、2割は絶対反対、6割は日和見になります。これも人間のさがで、それでいいんだと思います。まずやる気のある2割にやらせてみる。うまくいって6割の人がなびけばそのプロジェクトは成功です」

「アステラス製薬に統合した後、両社が従来得意としてきた疾患に研究領域を絞ったところ、二匹目のドジョウばかり狙ってしまって研究の生産性が落ちてしまいました。これではいかんと、13年ころから研究改革に乗り出したのですが、この時も賛同する少数のチームから始めました」

「遠い目標を与えるだけでなく、マイルストーンを少しずつ超える成功体験をさせていくと、6割の人がいつの間にか入ってきて改革が軌道に乗りました。自前主義からの脱却や、研究拠点の配置を日本国内にこだわらないといった、いま進めている研究の戦略につながっています」

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