失敗から学ぶことなんてない
――失敗から学んだ経験はありますか。
「失敗から学ぶことなんてありません、というのが答えです。医薬情報担当者(MR)が担当の病院の先生を怒らせてしまったとか、プレゼンがうまくいかなかったとか、そういった類いの失敗というのはほとんど勉強不足が原因です。経営陣に加わってマネジメントのコーチをつけてもらったとき、ちょうど研究改革を始めていました。コーチから『トライアンドエラーはやってはいけません。失敗できないんでしょ』と言われました。確かにその通りです」
「失敗しない改革のために学んだのが米経営学者のジョン・P・コッターが書いた『企業変革力』です。国家や企業の様々な改革を分析して、成功した例に共通する性格を抽出してあります。科学者であっても、社会学者でも心理学者でもない私が手探りでやってはだめだ、と強く認識しました。忠実に実行し、研究改革はうまく行っていると思います」
――他社の経営者で刺激を受けているような人はいますか。
「私の勉強不足かもしれませんが、刺激をうけている人はいません。例えば米アップルの創業者、スティーブ・ジョブズの成功談で、将来の成功の匂いをかいでほかを潰してそこに集中した、と聞いても、本当にそうなのかなと思います。よくできたストーリーを後付けしているかもしれないし、経営者が1人で決めたのか、周りの人が優秀だったのか、よくわかりません」
――社長業を終えた後にやりたいことはありますか。
「医療の進歩で長寿化が進んで人口が多くなることを考えると、地球全体では今の人類の暮らしは持続的ではありません。これを助けるのはやはり科学の進歩だと思います。具体的なものはまだないのですが、最先端のサイエンスに挑む人たちを応援するようなことをしてみたいですね」
1986年東大院修了、山之内製薬(現アステラス製薬)入社。2010年アステラス製薬執行役員。17年副社長、18年社長。
(秦野貫)
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