みうらじゅん 実は断捨離から始まったコレクション
「マイブーム」「ゆるキャラ」など、コレクションを通じて独自の世界を生み出すみうらじゅんさん。「死ぬまで捨てるもんか!」と強い意志を持って収集し続けるモノを一気に紹介した書籍「マイ遺品セレクション」を発行したみうらさんに、コレクションを始めたきっかけや、収集を続ける秘訣、さらには現在の「断捨離」「生前整理」ブームについても話を聞いた。
子どものころから「モノは捨てない」
「実は今の収集の始まりは、『捨てる』という行為と深く関わっているんです。
そもそもモノを集め始めたのは、小学校1年生の時。映画『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)を映画館で見て以来、怪獣が大好きになって、怪獣が載っている雑誌や新聞を集め始めたところから。でもそういうものって、そのまま取っておくと、大掃除の時に親に捨てられるもんですよね。『あんた、もうこれはいらんやろ』って、今でいう『断捨離』を迫ってくる(笑)。
でも、俺は子どものころからモノにやたら執着があって、『好きになったものは捨てない』って気持ちが強かった。どうすれば一生持ち続けられるかを、早いうちから考えていたんです。
それで始めたのがスクラップです。気に入った怪獣写真を切り抜いてスクラップブックに貼っておけば、それはさすがの親も、子どもの作品として捨てられないじゃないですか。
そのころのスクラップブックを今も持ち続けているんだけど、それは収納の方法がなかった時代なので、自分で考えたのが良かったんだと思います。
70年代に入ると、『仮面ライダースナック』というお菓子の袋の中にライダーカードというものが入っていて、すぐに専用のカードホルダーが出たんですよ。それには番号が振ってあるもんで、抜けているところがあると気持ち悪い。だからそこを埋めたくて、またスナックを買う。確実に大人が考えた商売のやり口ですね(笑)。
でも、そういう自分が考えたわけじゃない『ガワ』(ケース)では、いとおしさがない分、魔が差して、ある時期捨ててしまう可能性がありますよね。その点、自分で表紙にも絵を描いたスクラップ帳は、自分で考えたからこそ、今でも取ってあるんです」
モノとモノがつながるのを待っている
収集したモノがスペースを埋め尽くし、今では倉庫まで借りているというみうらさん。だがモノを捨てないのには意味がある。
「すべてのモノは、何らかでつながっていると思うんですよ。膨大に集めたモノとモノがつながって、『ないカテゴリー』や『ない概念』が出てくることがある。あるとき、それに気づきました。
そこに『黒木憲デラックス』っていうレコードが置いてあるでしょ? それは黒木憲の歌を聴こうと思って買ったものじゃないんですよ。重要なのは彼が座っている椅子なんです。
映画『エマニエル夫人』のポスターで、エマニエル夫人は籐(トウ)の椅子に座っていたじゃないですか。あるとき、そのサントラ盤から派生したであろう『籐の家具のジャケット』が世界中にあることに気づいたんです。そこから、『籐の家具のジャケット』を集め始めた。『エマニエル夫人』のサントラを買ってから黒木憲にたどりつくまで50年近くかかってるんですけどね(笑)。見つけた時にはガッツポーズ取りました(笑)。
100年経ったら『エマニエル夫人における籐家具文化』という研究書を出す人もいるかもしれない。第2の柳田国男みたいな人がね(笑)。そういうときのために、買ったものは捨てずに、キープオンし続けるんです」
さまざまなモノを「キープオン」し続けるみうらさんに、昨今の「断捨離」「生前整理」ブームはどう映るのか。
「本気で集めたいものがある人はそもそも捨てようなんて考えもしないはずですよ。大切なものが生前になくなったら、それだけで悩みが増えるんですもん。
今回、出版した本を『マイ遺品コレクション』というタイトルにした理由の一つは、『とっておくのもの』という提案がしたかったんですよ。『とっておきのもの』じゃなくても、とっておいてもいいんじゃない?的な。俺に『そんなにモノを残したら遺族の人も困るんじゃないですか?』って言う人もいるけど、そんなの大きなお世話ですから(笑)。
それに生前整理をしなきゃいけないようなモノ持ちって、そんなにいないですよ。よくテレビで『親族がモメて……』なんて話を見るけど、あれは金持ちの話。普通の人にはそんな遺産あるはずないじゃないですか(笑)。遺産相続の専門家に聞いてみてくださいよ。『モメることはないでしょう。大丈夫ですよ』って笑われるはずですよ」
収集にはウケが必要
みうらさんの話を聞いていると、モノを集めて維持する大変さと同時に、楽しさも伝わってくる。みうらさんによると「コレクションを続けるにはそこが大切」だという。
「マイ遺品にはウケが必要なんです。よく店舗の2階とかに、趣味で集めたものを展示している人がいるじゃないですか。『先代がカメラマニアだったんです。どうぞ、見てやってください』なんて言われても、誰も2階に上がらないでしょ。それはなぜかというと、面白くなさそうだからですよ。
例えばカメラの横に本物の亀とか置いて、『こんなもんまでカメつながりで集めてたんだ!』と思わせるくらい、ひねったり盛ったりしないと、誰も関心を示してくれないんじゃないかな。反対に関心を示してもらえれば続ける気にもなるし、それを残すこともできるかもしれない。
盛るためには、できる限り損をしたほうがいいです。『何のためにそこまで? そんなもん買うために外国まで行ったの?』ってなると、みんなちょっと笑うもんですよ。『コイツ、バカだなあ』と油断が出る。そこを突破口にバーンと入り込める(笑)。そういう意味で旅行は重要ですね。笑ってもらうための移動です。『せっかくだから温泉に入りたい』とか、そんな甘い気持ちはあってはいけないのだと思います(笑)」
すでに価値があるものには興味がない
さまざまなモノを集め続けるみうらさんだが、コレクションに関しては「限度を見定めることも重要」だという。
「ボブ・ディランのレコードを各国盤まで集めていた時に垣間見えたんですけど、膨大な数のモノを集め続けたら、いずれ破産するってことです。猫グッズなんかも大変ですよね。『何? 自殺すんのか?』っていうぐらいの数のグッズが出ていますから。どこが崖っぷちなのか、見定めて戻ってくることも大切だと思います。
そもそも俺のコレクションは誰かが付けた価値に対して疑問を持ったのが始まりです。すでに価値があるものは、あまり興味が持てなかった。
テレビの鑑定番組で『ごめんなさい、5000円です』とか言われてみんながっかりしているけど、いいじゃないですか。自分が100万円だと思っているんだったら、それでいいんですよ。そこは思い込みですから、お金で計れない。そういうものこそが本物のマイ遺品じゃないのかって思いますけどね」
1958年生まれ、京都府出身。80年、武蔵野美術大学在学中に漫画家でデビュー。代表作に、後に映画化もされた『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』など。またイラストレーター、文筆家、ミュージシャンなど幅広く活躍。04年度日本映画批評家大賞功労賞受賞、18年に第52回仏教伝道文化賞沼田奨励賞を受賞。著書に『アウトドア般若心経』『いやげ物』『マイ仏教』『「ない仕事」の作り方』など多数。
マイ遺品セレクション
「死ぬまで捨てるもんか!」と強い意志を持って収集し続けている「マイ遺品」を、写真と文章で一挙紹介。収集癖の原点である「怪獣スクラップブック」をはじめ、名所がない土地で見かける微妙な風景の絵はがき(カスハガ)、子どもの交通事故防止のために道路脇に立てられている「飛び出し坊や」の写真、町の看板から般若心経の文字をコンプリートして並べた「アウトドア般若心経」など、「世間的には『なぁーんの価値もない』」(みうらさん)モノが並ぶ、「マイブーム」の集大成といえる著書。文藝春秋刊。
(文 泊貴洋、写真 藤本和史)
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