国際派ソニー会長の意外な後悔 「もっと海外体験を」ソニー会長 平井一夫氏

2019/4/15

20歳の頃

日本を代表する多国籍企業、ソニーの社長を6年務めた平井一夫会長。このほど、ソニーからの「卒業」を明らかにしたばかりだ。堪能な英語を生かしたプレゼンテーションの巧みさから、世界から「カズ」と親しまれている。猛烈に働きつつも、「会社だけが人生じゃない」とどこかひょうひょうとした雰囲気を醸し出す58歳。2018年に社長の座を譲ってからまもなく1年がたとうとしている今、20歳の自分と読者へのメッセージをお願いした。

■20歳の私
日本と海外を行ったり来たり。「人生を振り回されるのはこりごり」と米国から単身帰国し、国際基督教大学(ICU)に通う。英語を生かしたアルバイト代を車4台につぎ込む

今思えば海外に住めたのはラッキーなのですが、銀行員の父について日本と海外とを行ったり来たりする生活にこりごりでした。高校3年生で米国から単身、日本に帰国し、東京・調布のアメリカンスクールに通いました。同級生はほとんど米国の大学に進み、現地企業に就職しましたが、日本人として日本で生きていきたかった私は、国際基督教大学(ICU)に進学しました。

ICUの学生は人種、国籍、年齢、宗教さまざまで、ダイバーシティ化が進んでいました。授業で「結論はこれしかない」と思ったような議論でも、バックグラウンドの異なる人がたくさんいるので全く違った視点の意見が出てくる。そこで学んだのが、英語で言うと"agree to disagree”つまり「あなたの言っていることには賛成しないけど、言っていることは分かる」ということ。色々な意見を聞いて、なるべく正しい情報を得た上で判断する姿勢が身につきました。これはマネジメント職になって大いに生きました。

学校を離れると、アルバイト一色でした。当時は音楽とクルマが大好き。英会話講師や技術書の翻訳でお金をためて、卒業までに車を4台乗り換えました。今思えばアルバイトばかりでなく、もっと広い意味で勉強しておけばよかったなと思います。

就職先は、好きな音楽か車に関われる仕事で絞り込みました。CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)と自動車会社から内定をもらいました。さすがに悩んで父に相談したところ、父は私を座らせて、ビールをついでくれました。そして「車は人生で何十台も買うものじゃない、有限だ。それに対して、音楽はソフトウエアだから無限であり可能性がある」とアドバイスをくれました。とどめに「趣味を仕事にすると、仕事で行き詰まったら助けてくれるものがなくて困るぞ」という助言もあって、CBSソニーに入社しました。