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立川談笑、らくご「虎の穴」

うけるのはツッコミかボケか ネタは当日こう決める 立川吉笑

2019/3/31

イラストはイメージ=PIXTA

落語家をやっていると、お客様からよく「その日にやるネタはいつ決めるんですか?」と聞かれることがある。落語家は演目を事前に決めずに高座に上がり、「まくら」と呼ばれる導入部を喋(しゃべ)りながら客席の反応を見て、ネタを決めると思われている方も少なくないと思う。実際にそういう面もある。少なくとも「ネタ出し」と呼ばれる、演目を事前に提示しておく仕組みよりは、当日、自分の気分や客席の様子を見てから演目を決める方が十中八九やりやすい。今回は実際に僕がどういう判断で演目を決めているのか書いてみたい。

そもそも落語家という職業は「アーティスト」であると同時に「サービス業」でもある。自分が良いと思う作品(落語)を表現するアーティストとしての一面もあるけど、一方でその場のお客様に楽しんでいただくサービス業としての一面もあるのだ。いくら自分が考える最高の表現をしたところで、お客様がそれを楽しんでいなければ独りよがり。「笑い」という、他者の反応ありきの表現活動である以上、お客様が楽しんでいなければ成立していないのと同じだ。

理想的な状況は「自分が表現したい落語」と「お客様が求める落語」が一致している場合で、そんなときは、とにかくやりたいことをやればよい。でも独演会を除けば、僕みたいな若手落語家の「自分が表現したい落語」をお客様が求めているとは限らない。僕の後に出演される真打の師匠が目当てなのは当然だ。

例えば複数人が出演する落語会に出演する際は、事前に数席の候補を決めておくことが多い。「自分らしさが色濃く詰まったネタ」「楽しみどころが分かりやすいネタ」「ドカンと大きな笑いを取れる可能性が高いネタ」「落語っぽい空気感のネタ」みたいに、それぞれタイプや想定される反応が違うネタを選んでおく。

「自分らしさが色濃く詰まったネタ」は「自己表現」としての要素が強い。「独創的と噂に聞く立川吉笑さんの落語はどんなのだろう?」だなんて、うれしい期待をもってくれるお客様が多い場合はそういうネタをやる。一方で、僕の作る落語はちょっと尖っている部分があると自覚していて、そういうネタを求められていないお客様が多そうだと判断したら「楽しみどころが分かりやすいネタ」をやる。これはサービス業として。

勝負どころは高座に上がる前

イベントとしては、できるだけ早い段階で会場全体がドカンと笑う瞬間をつくった方が、その後の一体感が違ってくる。もし自分より前にそういう一体感が出来上がっていなかったなら、起爆剤のつもりで「ドカンと大きな笑いを取れる可能性が高いネタ」をやる。ただのんびり落語を聴きに来られている方が多いと判断した時は「落語っぽい空気感のネタ」を選ぶ。

などと、自分の役割を意識しつつ、いくつか候補演目を定めておく。当然ながら、当日、自分より前の出番の出演者がやったネタとは色合いの違うネタを選ぶ必要もある。そして、候補の中から実際にどの演目をやるか決めるタイミングだけど、僕の場合は出番前に決めてしまうことが多い。前の演者の高座と、それを聴いているお客様の反応から「これをやろう」と基本的には先に決めておく。

ごくまれに、まくらでの反応で思っていた手応えを感じられなかった時は緊急避難的に他の演目に変える場合もあるけど、それはレアケースで、基本的には直前の出番の方の高座を聴きながら演目を決める。少なくとも2席には絞っておく。

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