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うけるのはツッコミかボケか ネタは当日こう決める

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

落語家をやっていると、お客様からよく「その日にやるネタはいつ決めるんですか?」と聞かれることがある。落語家は演目を事前に決めずに高座に上がり、「まくら」と呼ばれる導入部を喋(しゃべ)りながら客席の反応を見て、ネタを決めると思われている方も少なくないと思う。実際にそういう面もある。少なくとも「ネタ出し」と呼ばれる、演目を事前に提示しておく仕組みよりは、当日、自分の気分や客席の様子を見てから演目を決める方が十中八九やりやすい。今回は実際に僕がどういう判断で演目を決めているのか書いてみたい。

そもそも落語家という職業は「アーティスト」であると同時に「サービス業」でもある。自分が良いと思う作品(落語)を表現するアーティストとしての一面もあるけど、一方でその場のお客様に楽しんでいただくサービス業としての一面もあるのだ。いくら自分が考える最高の表現をしたところで、お客様がそれを楽しんでいなければ独りよがり。「笑い」という、他者の反応ありきの表現活動である以上、お客様が楽しんでいなければ成立していないのと同じだ。

理想的な状況は「自分が表現したい落語」と「お客様が求める落語」が一致している場合で、そんなときは、とにかくやりたいことをやればよい。でも独演会を除けば、僕みたいな若手落語家の「自分が表現したい落語」をお客様が求めているとは限らない。僕の後に出演される真打の師匠が目当てなのは当然だ。

例えば複数人が出演する落語会に出演する際は、事前に数席の候補を決めておくことが多い。「自分らしさが色濃く詰まったネタ」「楽しみどころが分かりやすいネタ」「ドカンと大きな笑いを取れる可能性が高いネタ」「落語っぽい空気感のネタ」みたいに、それぞれタイプや想定される反応が違うネタを選んでおく。

「自分らしさが色濃く詰まったネタ」は「自己表現」としての要素が強い。「独創的と噂に聞く立川吉笑さんの落語はどんなのだろう?」だなんて、うれしい期待をもってくれるお客様が多い場合はそういうネタをやる。一方で、僕の作る落語はちょっと尖っている部分があると自覚していて、そういうネタを求められていないお客様が多そうだと判断したら「楽しみどころが分かりやすいネタ」をやる。これはサービス業として。

勝負どころは高座に上がる前

イベントとしては、できるだけ早い段階で会場全体がドカンと笑う瞬間をつくった方が、その後の一体感が違ってくる。もし自分より前にそういう一体感が出来上がっていなかったなら、起爆剤のつもりで「ドカンと大きな笑いを取れる可能性が高いネタ」をやる。ただのんびり落語を聴きに来られている方が多いと判断した時は「落語っぽい空気感のネタ」を選ぶ。

などと、自分の役割を意識しつつ、いくつか候補演目を定めておく。当然ながら、当日、自分より前の出番の出演者がやったネタとは色合いの違うネタを選ぶ必要もある。そして、候補の中から実際にどの演目をやるか決めるタイミングだけど、僕の場合は出番前に決めてしまうことが多い。前の演者の高座と、それを聴いているお客様の反応から「これをやろう」と基本的には先に決めておく。

ごくまれに、まくらでの反応で思っていた手応えを感じられなかった時は緊急避難的に他の演目に変える場合もあるけど、それはレアケースで、基本的には直前の出番の方の高座を聴きながら演目を決める。少なくとも2席には絞っておく。

 デザートを求めているお客様に大盛りパスタを出したところで喜んでもらえるはずはないので、高座に上がる前のネタ選びがまずは大きな勝負どころとなる。演目を絞る決め手になる基準はいくつかあるけど、まずは「たくさん笑うお客様か、笑い声は少なめのお客様か」というポイント。客席の雰囲気は本当に毎回違って、めちゃくちゃ陽気に皆さんがゲラゲラ笑ってくださる時もあれば、思っているより少なめにしか笑っていただけないこともある。雰囲気が「重い」か「軽い」かは、まずは大事な判断材料になる。

次に「お客様の落語を聴きたいという熱量がどれくらいか」という基準。大きなホールでの落語会や独演会だと、お客様も「今日は落語を聴こう」という気持ちで会場に来られている。一方で、会によっては「誘われたから来た」とか「招待券をもらったから来た」とか「たまたまふらっと来た」とか、受け身の色合いが強く、そこまで落語を聴こうと客席のモチベーションが高まっていないと感じることもある。

また前の出演者たちがドカンドカンととにかく会場を沸かせている場合、同じように自分もフルスイングで笑ってもらいにいくこともあるけど、ひとまず会場の空気をグッと落ち着かせる、我々の言葉で「締める」ためのネタを選ぶ場合もある。派手な演目が並ぶとお客様が疲れてしまう恐れがあるので、ひとまずクールダウンしてもらう。あとは、これまでの演目と雰囲気の違うネタを選ぶことで自分の高座がより印象的に映る効果を狙って、という理由もある。

それでもうまくいかなかったときは

「どんなくすぐり(ボケ)で笑いが多く起こっているか」もかなり大事な要素だ。僕なりのざっくりとした基準だと「ツッコミで笑う方が多いか、ボケで笑う方が多いか」。さらに感覚的な言葉になるけど「説明やおかず的な部分でどれくらい笑ってもらえるか」という点も意識している。ボケた後に「おかしいだろ!」と大きくツッコミを入れることは、「ここが笑いどころですよ~」と聞き手に伝える役割がある。笑いどころを明確にすることでお客様はドカンと笑いやすくなるのは当たり前の話だ。ただ日によってはボケが喋っている最中にお客様が笑い始めて、別にツッコミを入れる必要がない時もある。そんな場合は、笑いの流れを止めないために別段強いツッコミは入れずに、むしろ流すように演じる方が効果的なこともある。

「説明やおかず的な部分」をあまり楽しめていないお客様には、僕が好んでよくやる、ちょっと入り組んだロジックを使った笑いは伝わりにくいリスクがある。そういう場合はもっとシンプルな構造のネタを選んだり、ガイドとしてのツッコミをいつもより強くしたりするよう心がける。

こんな感じで候補演目を絞って高座に上がってからも、予定の演目を一番楽しんでもらえるよう、まくらで客席の状態を整え、最後の微妙な味付けの勘どころを探る。舞台に上がる時の拍手の感じや僕を見る顔つきで、その日のお客様が「僕に好意的か否か」「そもそも僕を知っているか」といったことが分かるから、もし僕を知っている方が多ければ、まくらも一般的なものではなく、少しパーソナル度の強い話題を選ぶ。客席の反応が読みにくいときは、手堅く笑ってもらえる類の小噺(こばなし)をやってみる。理想とする笑いの量との差をみて、どれくらいタフな環境なのかネタに入る前に確かめるためだ。

読者の皆さんもプレゼンなど人前で話す際は、前の方の発表を聞きながら聴衆の雰囲気を探ってみることを意識してみると、より伝わりやすくできるかもしれません。そして高座(発表)がうまくいかなかった時のために次の言葉を覚えておいてください。「どれだけスベっても、死にはしない」

立川吉笑
 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。古典落語のほか、軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載する一方、多くのテレビ出演をこなすなど多彩な才能を発揮する。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧ください。

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