検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

「女性幹部増やせ」独企業が急ぐ登用・育成の透明化

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

「女性にげたをはかせてまで昇進させるのか」「数値目標を掲げないと女性幹部はなかなか増えない」

女性活躍推進の旗振りのもとで、幾度となく聞かれた賛否の声だ。3年前にクオータ制(割当制)を導入したドイツを訪ね、その影響と、有力企業の女性幹部育成・登用における取り組みの最前線を探った。

「女性もっと登用を」の機運が高まる

女性役員を増やすためのクオータ制が欧州連合(EU)各国に広がる中、一貫して反対の立場を取ってきたドイツ。ところが一転して2016年1月、企業の監査役会を対象に「女性比率を3割以上にすべし」というクオータ制を導入した。

従業員2000人超の上場企業で、監査役会の従業員代表と株主代表が同等である約100社が対象である。女性の候補者がいない場合は空席とするとしたところ、ほぼ全社がその目標を達成した。同時に「フレキシブル・クオータ」と称して、上場企業など約1750社に、取締役からその2段階下の管理職まで、女性比率と数値目標の公表を求めている。

ドイツ企業の監査役会は日本と違い、取締役を選解任するなど重要な決定権を持っている。監査役の女性を増やすことで、女性の取締役や管理職を増やしていこうというものだ。その影響を大手企業の人事担当や女性役員らに尋ねてみた。

「女性幹部と初めて仕事を共にした男性経営者らは、女性にも能力があると気付いた」

欧州企業各社で取締役、監査役の経験があるエルケ・ベニング=ローケさんは、クオータ導入の意義をこう語る。19年2月に開かれたベルリン映画祭では、初めて女性が委員長に就いた。これもクオータ制などにより、社会全体に「女性をもっと登用しなければいけない」という機運が高まったことが影響しているとみている。

女性監査役らの声に耳を傾けてみよう。「女性が一人という状況から複数人になり、監査役会の緊張感が和らいだ」と言うのは、コカ・コーラ・ヨーロピアン・パートナーズで長らく監査役を務め、現在はベルリン清掃人事責任者のユーディット・ヒュプナーさん。「集団の中で少数派が3割を超えると影響力を持つようになる」という、米ハーバード大学のロザベス・モス・カンター教授の説からしても「数の論理」は大きい。

「目指すべきは50%。30%は手ぬるい」というのはベルリン鉄道監査役のイネス・シュミットさん。洋裁学校を出た後、ベルリン鉄道に路面電車の運転士として転職。たたき上げで従業員代表から監査役になった。シングルマザーを運転士として積極採用するなど女性登用の道を切り開いてきた。

一方、企業側は一貫して法制化に反対だった。ドイツ産業連盟役員のイーリス・プレーガーさんは「法律で割合を定めるのは間違った方法だ。クオータ制は、管理職に女性が少ない要因を見落としている」と批判する。幼少期の教育、仕事と家庭の両立、古典的な男女の役割分業モデル。女性の昇進を妨げるこうした要因を社会全体で取り除いていくことこそ必要だと主張する。

これに対しては「社会に根深い問題があるのは承知しているが、自然の変化に委ねていては時間がかかりすぎる。クオータを入れたことで、明らかに変化が起きている」(ベニング=ローケさん)。賛否があるにせよ、企業内で問題意識が高まったのは事実のようだ。

「無意識の偏見」への気付きがカギに

問題は、監査役への登用が女性取締役の増加につながっていない点だ。監査役と取締役を合わせた割合では女性比率は2割を超えるものの、取締役だけだと上場企業大手200社の女性取締役比率は約9%にとどまる。

フレキシブル・クオータでは「女性取締役の割合目標を0%とするところが、対象企業の約半分を占める」(家族・高齢者・女性・青年省のクリスティーナ・ガイストさん)。ドイツには社外取締役がいないため、内部昇進で女性を上げるのは当面無理だというのだ。

日本と同様ドイツでも、女性取締役がゼロでは許されないという機運は高まっている。「目標0%企業に対して、女性役員を増やせない理由を説明することを求めていく。これを課すため、年内にも罰金付き制裁措置を定める見込み」とガイストさんは言う。

こうした動きのなか、大手企業は女性幹部育成に一層力を入れ始めた。取り組みは大きく3つ挙げられる。

一つは、日本でも関心が高まっている「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)の気付きを促す取り組みだ。ボッシュでは17年から全世界の従業員全員に研修を始めた。特に人事権のある役職者に対しては「無意識のうちに女性を選抜しない」といったことがないよう、評価のバイアスを取り除く研修を18年から実施している。数人が一組になり、ある人物の模擬評価をして、評価に食い違いがあった場合はその理由について論じるというもの。参加者は研修を受けたことで「なぜこの人を選んだのか、背景を探り理由付けをするようになった」という。

さらに、後継者育成プログラムに管理職候補を選抜する際、訓練を受けた試験官が複数人でビデオインタビューを見て判断するなど、客観性を保つ試みも始めている。大学研究者と組んでAI(人工知能)も活用するなど、バイアスに左右されない選抜法の研究も進めている。

フォルクスワーゲンもまた、女性幹部を育てる上でアンコンシャス・バイアスが壁になることがあると考えている。同社のダイバーシティ推進責任者のエルケ・ハイトミュラーさんは心理学者でもあり大学で教えた経験もある。最新の学術研究を日常でいかに実践できるか、社員研修の中で教えている。

例えば「人間は自分に似ている人を好む傾向がある」というバイアスが、起きて間もない時間帯はさほど強くないとされる。そこで、女性が男性管理職とミーティングをする時間帯は朝のほうがチャンスにつながるとすすめているという。今年は管理職に対する特別研修を始める予定だ。

管理職候補3人のうち必ず1人は女性に

2つめは、積極的なアファーマティブ・アクション(格差是正策)だ。欧州最大の鉄鋼会社ティッセン・クルップで成果を上げたのが管理職候補割当制。取締役レベルから3つ下の階層の管理職まで、「最終候補者3人のうち必ず1人を女性にしなければならない」と定めた。適した女性がいなければ、取締役会の承認を得る必要がある。この仕組みを導入した15年当時7.8%だった女性管理職比率が、18年時点で12%にまで上がった。

さらに昨年、新たに実施したのが「ドライバーシート」というプログラム。責任ある新しい仕事に就きたいと思う女性は、1年かけて取り組みたいプロジェクトテーマを自ら決めて応募。例えば「ルーマニアの自動車産業に対する国境を超えた相乗効果の最適化」といったもの。一人ひとりに執行役員らがスポンサーとなって実行を手助けする。昨年は営業や購買など各部署の女性12人が手を挙げ、成果を認められて4人が昇進を果たしたという。

ドイツ銀行が2009年から実施しているのが「アトラスプログラム」。取締役・経営陣の候補となる女性15~20人ほどを対象に、事業戦略から「人としてどう成長するか」まで学ぶ。女性幹部を引き上げる効果だけでなく「取締役ならびに上級管理職に対して、才能あるトップクラスの女性たちを可視化する効果もある」と人事部シニア・エクスパートのゲノウ・ゼンドフスキーさんは言う。

3つめは、キャリア断絶を防ぐための試み。仕事と家庭をいかに両立するか、これは日本だけではなく世界共通でキャリア女性が抱える悩みだ。

ティッセン・クルップのグループ事業会社の一つであるマテリアル・サービスCOOのイルゼ・ヘネさん(46)は、非ドイツ系で初の女性役員として約2万人の従業員を率いる。これまでの道のりで最も大きな決断は、母国ベルギーからドイツへ、6歳の子どもを置いて単身赴任をすることだった。

「ママ知ってる? 家にいて働いていないママもいるんだよ」と折に触れて寂しい思いを口にしてきた息子を、ベルギーの小さな村に住む子供の父親に託し、単身でドイツ本社に転勤することは苦渋の決断だった。8年たった今、息子は「僕もママのような仕事がしたい」と言うようになったと笑顔で話す。

欧州最大の化学会社BASFでは、共にキャリア志向のカップルが増えているとして「デュアルキャリアプランニング」の支援をしている。男女問わず駐在員のパートナーには、コーチングや仕事探しの経済的支援などを、赴任後1年にわたり行っている。さらに、赴任先でパートナーが仕事をみつけられるよう、提携企業各社の求人情報を提供するプラットフォームをつくっている。

BASF欧州の取締役を務めるサオリ・デュボワさん(47)も、生後3カ月の娘と共にシンガポールに赴任した際、「会社に手厚い支援をしてもらった」と感謝する。ためらうデュボワさんの背中を最初に押したのは、夫の一言だった。「50歳になっても同じソファに座っているのか」。家族3人でシンガポールに渡ることを決め、赴任先ではヘルパーにも助けられた。「仕事に子育てとダブルで大変だったが、出産はキャリアの障害とはならなかった。その逆だった」と言う。

「私以上に私のことを信じてくれた上司の存在」

特徴ある各社の取り組みを挙げてきたが、魔法のつえのように何か一つで効果の上がるものなどない。どの企業も合わせ技だ。さらに幹部育成に最も効き目があるのは、職場経験であることは間違いない。そこには必ず多様性を尊重し、性別、人種を超えてチャンスを与える上司の存在がある。

「さあ、ここに君の課題があるよ。どうする?」

現在ボッシュの人事責任者であるエグゼクティブ・シニア・バイス・プレジデントのフィリス・アルブレヒトさん(47)は両親がトルコ系移民。社会人になってから7年間勤めていた会社の上司は、性別・人種に関係なく鍛えてくれる人だった。彼がいたからこそ「今の私がある」という。

BASFのサオリ・デュボワさんは、両親が日本人とドイツ人。「私の中には2つの文化がある。両方の視野から文化を理解できることが私の強み」だという。物事に対する別の視点が会社の発展につながると、上司は評価してくれたという。

デュボワさんは32歳のとき、自社開発したおむつ用の高吸水性素材を製品化するため、業界大手と交渉する大きなプロジェクトを任された。欧州全体で550億円を超える売上高となる大仕事をまとめあげた。これがビジネスの最適化を学ぶ大きな成長につながったという。

ドイツ銀行のキルステン・オッペンレンダーさん(46)は、高卒後に職業訓練を受けた後、銀行の一般職として同行に就職、20代半ばで英国で1年働くチャンスを与えられた。リーマン・ショックの折にはユーロ決済部門の責任者となっており、3カ月間不眠不休でリスク回避の陣頭指揮を執った。現在はプライベート・アンド・コマーシャル・バンク業務の国際部門COOおよびドイツ銀行欧州の取締役を務める。20代から30代にかけて「私以上に私のことを信じてくれた上司のおかげだ。13年間彼の下で働く間、彼は私に挑戦させ、支援してくれた」と言う。

女性幹部が職場経験を経て大きく成長できたのは、先進的な上司のおかげである。この点は日本も全く変わりはない。さらには、人種に対する先入観なく、むしろその違いを生かしながら鍛える姿は今後の日本でも参考にすべきところだろう。

◇  ◇  ◇

G7の中で女性の登用が最も遅れている日本が、ドイツから学べることは何か。

ドイツ企業を取材する中で必ずと言っていいほど聞かれた言葉が「透明化、可視化」であった。クオータ制導入によって現状を透明化し、問題を可視化する。さらには幹部候補の女性がいることを可視化する。監査役の割当制、さらに数値目標の公開義務が可視化、透明化の大きな契機となっている。

日本では女性活躍推進法の改正も見込まれるが、女性管理職比率や採用率など、公開が義務付けられるのは任意項目で最低一つでもよい。透明化は不十分である。公開を義務付ける項目を増やすべきだろう。

反対意見も多いクオータ制はどうか。ドイツでは、自然の変化に任せていては各階層の男女均等を実現するのに90年かかるという試算もある。さらに遅れを取る日本では、変化を加速するために期間限定でのクオータ制導入も検討すべき時期にきているのではないか。

(淑徳大学教授、ジャーナリスト 野村浩子)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_