「女性幹部増やせ」独企業が急ぐ登用・育成の透明化

BASFのサオリ・デュボワさんは、現在は農業分野を統括。プラスチック廃棄物の課題などに取り組む(写真 BASF SE)

欧州最大の化学会社BASFでは、共にキャリア志向のカップルが増えているとして「デュアルキャリアプランニング」の支援をしている。男女問わず駐在員のパートナーには、コーチングや仕事探しの経済的支援などを、赴任後1年にわたり行っている。さらに、赴任先でパートナーが仕事をみつけられるよう、提携企業各社の求人情報を提供するプラットフォームをつくっている。

BASF欧州の取締役を務めるサオリ・デュボワさん(47)も、生後3カ月の娘と共にシンガポールに赴任した際、「会社に手厚い支援をしてもらった」と感謝する。ためらうデュボワさんの背中を最初に押したのは、夫の一言だった。「50歳になっても同じソファに座っているのか」。家族3人でシンガポールに渡ることを決め、赴任先ではヘルパーにも助けられた。「仕事に子育てとダブルで大変だったが、出産はキャリアの障害とはならなかった。その逆だった」と言う。

「私以上に私のことを信じてくれた上司の存在」

特徴ある各社の取り組みを挙げてきたが、魔法のつえのように何か一つで効果の上がるものなどない。どの企業も合わせ技だ。さらに幹部育成に最も効き目があるのは、職場経験であることは間違いない。そこには必ず多様性を尊重し、性別、人種を超えてチャンスを与える上司の存在がある。

ボッシュのフィリス・アルブレヒトさん。職場でも「ユーモアはとても大切、時には自分を笑うことも必要だ」と言う。

「さあ、ここに君の課題があるよ。どうする?」

現在ボッシュの人事責任者であるエグゼクティブ・シニア・バイス・プレジデントのフィリス・アルブレヒトさん(47)は両親がトルコ系移民。社会人になってから7年間勤めていた会社の上司は、性別・人種に関係なく鍛えてくれる人だった。彼がいたからこそ「今の私がある」という。

BASFのサオリ・デュボワさんは、両親が日本人とドイツ人。「私の中には2つの文化がある。両方の視野から文化を理解できることが私の強み」だという。物事に対する別の視点が会社の発展につながると、上司は評価してくれたという。

デュボワさんは32歳のとき、自社開発したおむつ用の高吸水性素材を製品化するため、業界大手と交渉する大きなプロジェクトを任された。欧州全体で550億円を超える売上高となる大仕事をまとめあげた。これがビジネスの最適化を学ぶ大きな成長につながったという。

ドイツ銀行のキルステン・オッペンレンダーさん。部下から話しかけやすい雰囲気づくりに努めている

ドイツ銀行のキルステン・オッペンレンダーさん(46)は、高卒後に職業訓練を受けた後、銀行の一般職として同行に就職、20代半ばで英国で1年働くチャンスを与えられた。リーマン・ショックの折にはユーロ決済部門の責任者となっており、3カ月間不眠不休でリスク回避の陣頭指揮を執った。現在はプライベート・アンド・コマーシャル・バンク業務の国際部門COOおよびドイツ銀行欧州の取締役を務める。20代から30代にかけて「私以上に私のことを信じてくれた上司のおかげだ。13年間彼の下で働く間、彼は私に挑戦させ、支援してくれた」と言う。

女性幹部が職場経験を経て大きく成長できたのは、先進的な上司のおかげである。この点は日本も全く変わりはない。さらには、人種に対する先入観なく、むしろその違いを生かしながら鍛える姿は今後の日本でも参考にすべきところだろう。

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G7の中で女性の登用が最も遅れている日本が、ドイツから学べることは何か。

ドイツ企業を取材する中で必ずと言っていいほど聞かれた言葉が「透明化、可視化」であった。クオータ制導入によって現状を透明化し、問題を可視化する。さらには幹部候補の女性がいることを可視化する。監査役の割当制、さらに数値目標の公開義務が可視化、透明化の大きな契機となっている。

日本では女性活躍推進法の改正も見込まれるが、女性管理職比率や採用率など、公開が義務付けられるのは任意項目で最低一つでもよい。透明化は不十分である。公開を義務付ける項目を増やすべきだろう。

反対意見も多いクオータ制はどうか。ドイツでは、自然の変化に任せていては各階層の男女均等を実現するのに90年かかるという試算もある。さらに遅れを取る日本では、変化を加速するために期間限定でのクオータ制導入も検討すべき時期にきているのではないか。

(淑徳大学教授、ジャーナリスト 野村浩子)