eスポーツで「障害」超えろ プロ選手めざして猛練習

介護などの合間にゲームの攻略法を習得する(群馬県伊勢崎市のワンライフ)
介護などの合間にゲームの攻略法を習得する(群馬県伊勢崎市のワンライフ)

対戦型のコンピューターゲームで競う「eスポーツ」が、障害者や高齢者の社会参加の舞台になりつつある。指先の操作が主で、他のスポーツと比べて障害や老いによるハンディが小さい。日常の大きな楽しみとなり、プロを目標に取り組む人もいる。健常者も交えた大会などに参加しやすい環境が整えば、共生社会づくりに一役買いそうだ。

ゲームのコントローラーも改造

函館市から北へ約70キロメートル。筋ジストロフィーや重い障害を持つ人の専門医療を手がける国立病院機構八雲病院(北海道八雲町)には、100人近くが入院している。治療やリハビリ、敷地内の養護学校が終わった後、多くの患者の毎日の楽しみはゲームだ。

入院が長期間に及ぶため病室にゲーム機などの持ち込みができる。障害にあわせあご、視線などでも動かせるコントローラーは作業療法士の田中栄一さんが改造した。

根っからのゲーム好きが取り組んでいるのが「リーグ・オブ・レジェンド」。仲間と連携して陣地の攻略を競うソフトで、eスポーツの大会で採用される。全身の筋力が落ちる脊髄性筋萎縮症を患う新井海斗さん(20)はインターネット上でみつけた相手と対戦。「これで努力すれば健常者に勝てる」と目を輝かす。難病の患者も多いなか「最近は『明日何しようか』と前向きな会話が増えてきた」(田中さん)。

インターネット上でみつけた相手と対戦するのは楽しい(北海道八雲町の国立病院機構八雲病院)

群馬県で介護施設を運営するワンライフ(伊勢崎市)は昨年、デイケア拠点で障害を持つ人をeスポーツの選手に育成するプログラム「Onegame(ワンゲーム)」を始めた。将来の就業につなげるのが狙いで、入浴や食事などの間に専属コーチがゲームの攻略法を教える。

脳の病気の後遺症で左半身が不自由な上舞勇一郎さん(45)は鹿児島県から近くに引っ越してきた。「病気になって常にマイナス思考だったけど、ゲームならば今もできる。プロ選手になって稼ぐ目標ができた」

eスポーツは18年のジャカルタ・アジア大会で採用され、19年は茨城国体にも取り入れられる。賞金をかけた大会も各地で開かれるようになった。格闘技やレースなどのゲームを複数で競い瞬間的な判断やチームワークも求められる。一方で健常者と障害者が一緒に楽しむこともできる。

18年末に開かれた高校生eスポーツ選手権予選には知的障害を持つ高校生、浜田帝さん(16)らと健常者の混成チームが参加した。車を操作してサッカーのように得点を競うゲームで1回戦を突破。「五輪で採用されたら出たい」。浜田さんの声が弾む。

チームは相模原市で活動するNPO法人・知的障がい者サッカー推進連盟の活動で知り合った3人。連盟の杉崎智一デジタルダイレクターは「チーム活動を通じて周囲とのコミュニケーション力を高めてもらいたい」と話す。

1978年に登場して世界的なブームを巻き起こした「スペースインベーダー」を楽しんだ世代も年を重ね、eスポーツは年配の人にも広まる。「高齢者の娯楽は囲碁・将棋だけでない」。18年末にシルバーeスポーツ協会(さいたま市)を立ち上げた水野臣次さん(62)は、市のコミュニティーセンターなどを拠点に定期的な練習会を開く計画を練っている。

健常者との「公平性」どう確保

コンピューターゲームは、外出が難しい障害者や高齢者の娯楽として定着している。2000年代後半には、体の動きで操作できる任天堂のゲーム機「Wii」が介護施設などのリハビリに取り入れられた。ただ障害者などが健常者と肩を並べてeスポーツを競い合うには課題も残る。

例えばコントローラーだ。トップ選手の参加が見込まれる茨城国体の予選では公平を期すため改造が認められなかったといい、八雲病院のチームは「参加を断念した」。同病院によると市販のゲーム機のコントローラーは操作に100グラム程度の指で押す力が必要なため、10グラム以下でも動くよう独自に改良している。

こうした事情をくんで車いす競技のように障害に応じた機器を使ったり、プレーヤーの持ち点にしたりすることが考えられる。業界団体の日本eスポーツ連合(JeSU、東京・中央)も「今後は大会のルール作りや環境整備を進めていく」(浜村弘一副会長)としている。

(綱嶋亨)

[日本経済新聞夕刊2019年3月23日付]