チケット不正転売禁止法、何が対象? 6月14日施行
コンサートやスポーツなどのチケットの不正転売を禁止する「チケット高額転売規制法案」が2018年12月8日に成立。ネット上でのいきすぎた転売行為に歯止めがかかると共に、音楽業界では新たな課題への取り組みも始まった。
これまでも多くの自治体が条例などで、駅前やチケット売り場など「公共の場」でのダフ屋行為は禁じていた。しかしそれはネット上にまでは及んでおらず、人気グループ嵐のライブでは30万円の値がつく席もあるなど問題視されていた。今回の法律で、インターネット上の「ダフ屋行為」も含めた高額転売が罰則付きで禁じられる。施行は19年6月14日で、違反した場合には1年以下の懲役や100万円以下の罰金が科される。
今回の法律制定までの道のりを振り返ると、音楽業界の中でもコンサートプロモーターズ協会が先頭に立ち、様々な活動を進めてきた。きっかけは、2015年のチケット転売サイト「チケットキャンプ」(現在はサービス終了)のテレビCMだった。同協会の総務委員の石川篤氏は、「チケットキャンプが堂々とテレビCMを行っているのを見て、視聴者の方が公式なサービスと勘違いすると危機感を覚えた」と言う。
チケットキャンプとの話し合いは平行線に終わったものの、16年8月に、音楽関連団体とアーティストの共同声明として「高額転売NO」というメッセージを新聞の全面広告で掲載。法制化に向けて政治家を巻き込んだ活動に着手していった。17年6月には、定価でチケットを譲り合う公式トレードサービス「チケトレ」もスタート。この頃には自民党の石破茂氏が中心となり、党を超えての動きを見せ始める。そして20年の東京五輪も追い風となり、活動開始からわずか3年という異例の早さで法制化にこぎつけた。
今回の法律の正式名称は「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」。規制対象となる行為は、不正転売とそのための仕入れ行為だ。不正転売とは、興行主に無断で、業として販売価格以上の値段で転売をすること。つまり同額やそれ以下の価格での転売は問題ない。都合が悪くて行けなくなり、やむを得ず転売することも規制の対象外となる。
意図的な繰り返しがあるか
ただここで解釈が難しいのが"業として"という文言。これはビジネスとして、ということを意味しており、「意図的に繰り返されているか」などが判断基準になるという。石川氏は、「今後、判例を積み重ねていくなかで決まっていくと思いますが、個人的には5000円のチケットを5万円で販売した場合でもビジネスと判断されることもあると思いますし、1回しかやっていないといっても組織立っていれば十分違法となり得る」と語る。
では、チケット転売サイトを運営する側は、今回の法律をどう見ているのか。「チケットストリート」の代表取締役社長の西山圭氏は、「あくまでも現状の話ではありますが、今回の法律を見る限り、我々のサービスは法律に違反しておらず問題はない」と解釈。というのも、チケットストリートはビジネス利用するユーザーを排除する体制を敷いているからだという。また、「アメリカではボット法と呼ばれる、仲介業者がIT技術などを駆使してチケットを買い占めることを禁じる法律があります。日本も導入すべきはこちらではないか」とも語る。
音楽業界側も、チケットにまつわる問題はまだまだ山積していると考えており、「電子チケットの普及や、安心安全なリセールマーケットの整備などに、これから本腰で取り組んでいく」(石川氏)という。チケット問題はやっと1つの法律が成立し、これからより活発な議論がなされていく段階に入ったといえそうだ。
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2019年3月号の記事を再構成]
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