靴も下着もジェンダーフリー オシャレの固定観念崩す
ジェンダーフリー、ジェンダーレス、ユニセックス……。男女の性差の区別や垣根を越えたおしゃれの新たなトレンドが身近な場面にジワリと広がっている。個性重視や価値観、ライフスタイルの多様化がこうした動きをけん引する。ファッション消費を何とかテコ入れしたいメーカーや流通業者側の狙いも背景にはあるようだ。
サイズやデザインが多様化
丸井グループは有楽町マルイ(東京・千代田)8階に「ジェンダーフリーハウス」という特設売り場を2月16日~3月3日の期間限定で開いた。男性向け、女性向けと一切区別せず、サイズやデザインで多様性を持たせた衣類や服飾品をそろえたのが特徴だ。
まず目に付いたのが幅広いサイズ展開を打ち出した靴コーナーだ。パンプス(4990~1万800円)で19.5~27センチ、ビジネスシューズ(7900~1万7800円)で22.5~30センチと「通常よりも大きなパンプス、小さなビジネスシューズまで取りそろえた」(岸慶人・プロジェクト担当リーダー)。
パターンオーダーのビジネススーツ(約4万~十数万円)もサイズやデザイン、色などで通常よりも幅広い選択肢を持たせて対応。性的少数者(LGBT)にとって大きな悩みであるサイズやデザインの問題を解消する試みだ。
特設会場ではトランスジェンダーモデルの西原さつきさんが着こなしを指導するイベントも実施。「東北や関西、四国から来店するお客さんもいた」(岸さん)
百貨店の通常の売り場でも男女の性差の垣根は徐々に低くなりつつある。西武池袋本店では1月末から、5階の紳士服売り場で「ユニセックス」と掲げた女性も使える商品の取り扱いを本格的に始めた。
「紳士服売り場の来店客は6割以上が女性。妻による代理購入などが多いのは分かっていたが、それなら紳士服売り場に女性も使える商品を置けば、お客さんに便利だし、購買意欲も刺激できると考えた」(メンズスーツ&パーツゾーン店長の細田淳さん)
「女性でも着用可能なユニセックス」「ユニセックスで着られます」などと表記し、スポーツ衣料やボクサーパンツ、革小物、ハンカチ類の売り場で女性も使える商品を売り出したところ、夫婦やカップルがペアで買う例が増えたという。最近は女性が大きめな衣類を着るオーバーサイズが流行しており、女性客があえて男性向け商品を買うケースも目立つようだ。アパレル不況が長引く中、売り場を活性化したい思惑もにじむ。
ジェンダーフリーは学校の制服にも広がっている。
東京都中野区は新学期から全区立中学の女性生徒が自由に制服を選択できるようにする方針を打ち出した。制服は各校が独自に決めているが、現行だと区内全10校のうち5校で女子生徒の制服にスラックスが用意されておらず、スカートしかない。
「だが、スポーツが好きなのでスカートでは不便だと感じる女子生徒もいるし、防寒対策やLGBTであることを理由にスラックスをはきたいという声があることに対応した」(中野区教育委員会)
大手ブランドも性差にこだわらず
「社会の価値観は多様化している。女子はスカート、男子はスラックスという制服の固定観念も徐々に崩れていくのではないか」。LGBT支援に取り組む活動家の杉山文野さんはこう指摘する。
ジェンダーフリー、ジェンダーレス、ノージェンダー、ジェンダーニュートラル、クロスジェンダー……。表現は様々だが、こうした動きはすでに海外でも大きなファッショントレンド、意識改革として社会に定着している。
グッチ、クリスチャン・ディオール、ミッソーニ、ラコステなど大手ブランドはショーなどで性差にこだわらないコンセプトを相次いで発表。ニューヨーク・コレクションでは昨年から、男性・女性の従来の2部門に加え、新たにノンバイナリー(男女いずれにも属さない)部門が設けられた。
ニューヨークのマンハッタンでは「ジェンダーフリー」を掲げた衣料店も登場して話題になっている。男らしさ、女らしさ……。美や装いの基準は二択だけではもはや定義できなくなってきたようだ。
(編集委員 小林明)
[日本経済新聞夕刊2019年3月23日付]
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