「キングダムは会社員経験そのもの」 作者・原泰久氏漫画『キングダム』原泰久氏に聞く

――作中でリーダーが檄を飛ばすシーンが数多く登場します。

賽の国で合従連衡軍に攻め込まれ、絶対絶命のピンチのとき、信が飛信隊の皆を励ます(32巻343話)

僕は映画が好きで、特に合戦ものはほとんど見ているんですが、これから戦うぞ!というシーンが一番好きなんです。誰でも戦いの前は、怖いですよね。でも、そこで大将が檄を飛ばすと、一気にわーっと士気が上がる。合戦ものの醍醐味です。だから檄を飛ばすシーンは、一番大切にしていて、描いていて気持ちのいいシーンでもあります。実際の僕はスタッフに対して、檄は飛ばせない性格なので、こんなふうにできたらいいな、と(笑)。それよりも、誰よりも働いてその姿勢を見せることはやっているかもしれません。信が飛信隊のメンバーに「十持っているうちの三十を出す」ことを求め、「ちなみに俺は百を見せてやる!」と言ったような感じです。

檄を飛ばすときは、そのセリフも大切ですが、声も重要です。大きくて張りがあって、割れない。漫画は声は出ないけど、描きながら僕の頭の中ではちゃんと声が出ている。映画の山崎賢人さんの信と吉沢亮さんの政の声は、まさに僕の脳内で響いている声そのものでした。2人に演じてもらって、本当によかったと思います。

映画『キングダム』は4月19日公開。(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

――映画では脚本にも参加されたそうですね。

実は、最初に映画化の話があったとき、実現しないだろうと思っていたんです。映画化の話が持ち上がっても途中で頓挫してしまうという例を多く見たので……。ところが、松橋プロデューサーから台本が来た。これは本当にやるらしいぞ、と。実際お会いして実感が湧いてきました。

NHKのアニメ第1期は王騎将軍が死ぬところまででしたから、映画もそのくらいまでやりたいと言われるかな、と予想していたんです。すると5巻までだと言う。なるほど、そういう切り口か、と。この人には任せられると思いました。任せながらも作者からも「ここはばっさり切っていいです」と言わせてもらう。やりとりの間、どんどん脚本が良くなっていきました。

映画には、原作とは少し違う展開がありますが、その部分を中心にオリジナルでセリフを書き下ろしました。より『キングダム』のテーマを凝縮させたいいセリフになったと思います。というと簡単そうですが、実際には、俳優さんの台本読みが始まるというぎりぎりの日に、会議室に12時間こもって最後のセリフを決めていましたね。

試写を見たとき、もう俳優さんの力がすごくて、信を演じる山崎さんが演じる信を一生懸命応援している自分がいたんです。そのとき、「ああ、これは成功したな」と思いました。映画は原作以上に魅力的になっています(笑)。

金を操って人々を豊かにすることを説き、武力で中華統一を目指す政を批判する呂不韋に、政が「人の持つ本質は光だ」と告げる(39巻426話)

僕たちの世代は戦争を知らないから忘れがちですが、いにしえからずっと戦争の歴史があり今につながっています。始皇帝は武力統一して乱世を終わらせますが、歴史上、秦は僅か15年で滅亡してしまいます。しかし、その後の漢は400年も続いた。その平和な時代の礎を政と信がつくったというところまでが、『キングダム』なんです。

これから政と信は、他国を滅ぼす側に回るわけですが、僕としては滅ぼされる側もしっかり描いていきたいです。国を守り切れなかった武人たち、国をなくした市井の人々。この2つの視点を描きたくて『キングダム』を始めました。単なる正義と悪ではなく、それぞれに夢がある。その夢を描いていきたいと思っています。

原泰久
6月9日生まれ、佐賀県出身。03年に週刊ヤングジャンプ(集英社)の新人賞・第23回MANGAグランプリで、『覇と仙』が奨励賞を受賞。週刊ヤングジャンプ06年9号から『キングダム』の連載をスタート。13年、第17回手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝く。

[日経トレンディ2019年4月号の記事を再構成]

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