EOS Kiss・α7・GoPro…平成の高機能デジカメ
平成とともに歩みを進めたデジタルカメラ。前回「原点はQV-10 平成デジカメ、競争の末消えた個性派」では黎明(れいめい)期から中期にかけて急ピッチで進化を続けたレンズ一体型のコンパクトデジタルカメラを取り上げたが、後編で取り上げるのは平成中期~現在までの成熟期に登場した高機能デジカメ。スマートフォン(スマホ)の普及に伴い、デジカメはスマホでは撮るのが難しい写真が撮れる高機能モデルが人気になっていく。
花開いたデジタル一眼ブーム
デジタルカメラがブームとなった2000年代前半、その人気を加速するようにヒットしたのがレンズ交換式のデジタル一眼レフカメラだ。
デジタル一眼レフカメラは、00年より前にプロや中級者に向けた製品が登場。望遠や広角など、既存のフィルムカメラ用の交換レンズがそのまま使えることや、コンパクトデジタルカメラよりも圧倒的に大きな撮像素子がもたらす高画質を特徴としていた。だが、ボディーが大きく重量もあり、何より価格が数十万円ときわめて高価だったことから、一般層とは無縁の存在となっていた。
そんなデジタル一眼レフカメラが一般に普及する起爆剤となったのが、キヤノンが平成15年(2003年)に発売して「キスデジ」の愛称で親しまれた入門者向けモデル「EOS Kiss Digital」だ。外装をプラスチックにして大幅に軽量化したことや、操作ボタン類を減らして難しいというイメージを排除したことなどの工夫が評価されてヒットにつながった。何より、フィルム一眼レフでファミリー層や女性層に親しまれた「Kiss」のブランドをそのまま受け継いだことで、デジタル一眼レフでもそれらの層にリーチできたのは大きい。
交換レンズの販売の工夫もヒットを後押しした。EOS Kiss Digitalに合わせた小型軽量設計の標準ズームレンズを新たに開発し、ボディー単体モデルよりわずか2万円しか高くない割安な価格でセット購入できるキットモデルを用意した点が人気を呼んだ。当初は標準ズームレンズのみの用意だったが、後継機種では望遠ズームレンズもセットにした「ダブルズームキット」が登場。このキットを買えば普段使いから運動会まで幅広く対応でき、交換レンズを単品で追加するよりも圧倒的に安く済む点が好まれ、ほどなく入門者向けのデジタル一眼レフはダブルズームキットが売れ筋になった。
EOS Kiss Digitalのヒットを受け、ほかのカメラメーカーも相次いでデジタル一眼レフカメラを投入した。売れ筋はキヤノンとニコンの製品だったが、それらの2強にはない個性的な製品でたびたび話題を集めたのがペンタックス(現・リコーイメージング)だ。平成21年(2009年)には、100色ものカラーバリエーションを用意した入門者向けモデル「PENTAX K-x」を投入して世間を驚かせた。ただデジタル一眼レフは保守的な製品選びの傾向が強く、奇抜なカラーはヒットには至らなかった。
デジタル一眼レフは、当初APS-C型のセンサーを搭載した製品が主力だったが、平成20年(2008年)にキヤノンが発売したフルサイズセンサー搭載モデル「EOS 5D Mark II」は優れた高感度画質や操作性の向上、フルHDの動画撮影機能を搭載した点などバランスのよさが評価され、アマチュア層にも幅広くヒット。この機種の登場をきっかけに、中上級者向けのデジタル一眼レフは主力がフルサイズに移行していった。
ミラーレスの登場、カメラ女子の誕生
高画質が好まれたデジタル一眼レフだが、いくつかの欠点も存在していた。もっとも大きな欠点が、本体や交換レンズが大きく重いこと、コンパクトデジタルカメラで親しまれている背面液晶を見ながらの撮影がスムーズにできないことの2つだ。
これらの欠点は、デジタル一眼レフがフィルム一眼レフの基本構造を流用していたことに起因しており、デジタル処理を前提とした設計のレンズ交換式カメラが登場すれば解決できると見込まれていた。
その答えとして登場したのがミラーレス一眼だ。平成20年(2008年)、オリンパスイメージング(現・オリンパス)と松下電器産業(現・パナソニック)がマイクロフォーサーズ規格のミラーレス一眼の開発を発表。先に挙げたデジタル一眼レフの欠点を払拭できることを訴求し、写真ファンからの期待ががぜん高まった。
マイクロフォーサーズ第一号機として登場したのが、同年に松下電器産業が発売した「LUMIX DMC-G1」だ。だが、デザイン面のインパクトで一般にミラーレス一眼の魅力を広く知らしめることになったのは、オリンパスイメージングが翌平成21年(2009年)に発売した「ペン E-P1」といえる。往年のフィルムカメラ「オリンパス・ペン」をモチーフに、凹凸の少ないスリムなデザインに仕上げたのが特徴。白やシルバーで彩られた質感の高い金属製ボディーや、薄型のパンケーキレンズを組み合わせたことで、「デジタル一眼レフはダサいので持ちたくない」「難しそう」と考える若年層を獲得することに成功した。男女問わず人気がある女優の宮崎あおいさんをイメージキャラクターに起用し、ミラーレス一眼を首から提げて撮影を楽しむ「カメラ女子」が急増するきっかけを作った。
複数のメーカーが賛同したマイクロフォーサーズ陣営に対し、独自規格のミラーレスを開発して製品を積極的に投入していったのが、デジタル一眼レフでは2強の後じんを拝していたソニーだ。平成22年(2010年)に発売したソニー初のミラーレス一眼「NEX-5」は、APS-C型センサーを搭載しながらコンパクトデジタルカメラ並みの小型軽量ボディーに仕上げたのが特徴。レンズマウントが本体からはみ出している画期的なデザインが大きな話題を呼んだ。
「ソニーのミラーレス一眼」の存在感を飛躍的に高めることになったのが、平成25年(2013年)に他社に先駆けて発売したフルサイズミラーレス一眼「α7」だ。フルサイズセンサー搭載とは思えないコンパクトなボディーに仕上げたことに加え、自社製センサーの搭載でフルサイズながら15万円という戦略的な価格とし、世間を驚かせた。
α7と同時に発売された有効3640万画素の高画素モデル「α7R」、さらにISO409600という他社にはない超高感度撮影ができる「α7S」や、ピントを合わせながら秒20コマの超高速連写がまったくの無音でできる「α9」など、オンリーワンの性能を持つ派生機種を続々とリリース。他社がフルサイズミラーレスを投入するまでの数年間に、熱心なファンの心をわしづかみにし、この分野でのトップポジションを盤石なものとした。
スマホ時代にヒットした個性派
平成20年(2008年)にアップルの「iPhone 3G」が上陸したのをきっかけに、スマホのブームが到来。撮影した写真や動画をSNSですぐ使えるといった使い勝手のよさが好まれ、撮影の主役をあっという間に奪っていった。対照的に、デジタルカメラの販売台数は右肩下がりに減っていく。だが、そのような状況でもキラリと光るヒット機種が人気を集めていった。
スマホの画質に不満を持つ人に注目を集めたのが、大型の撮像素子を搭載した高級コンパクトモデルだ。とりわけ記録的なヒットとなったのが、ソニーが平成24年(2012年)に発売した「Cyber-shot DSC-RX100」。一般的なコンパクトデジタルカメラ並みの小型軽量ボディーに1型の大型CMOSセンサーと明るいレンズを搭載し、手のひらサイズのカメラでデジタル一眼に迫る高画質撮影ができると話題を呼んだ。
RX100シリーズは、レンズやファインダーなどの装備を改良した派生モデルがすでに数機種登場しているが、初代RX100もいまだに現行モデルとして販売を続けている。装備がシンプルなぶんだけ軽く低価格なことに加え、基本デザインが変わらないために古さを感じさせないこともあり、シリーズでも1、2を争う人気を得ている。
デジタルカメラのブームが過ぎ去ったあとに現れて注目を集めたのが「360度カメラ」とも呼ばれる「全天球カメラ」だ。カメラの前後に2組のカメラを搭載し、1回のシャッターで周囲360度の様子がすべて撮影できる。スマートフォンとVRゴーグルを用いれば、あたかもその場所にいるような感覚で視聴できる点も話題を呼んだ。
一般向けの全天球カメラは、リコーが平成25年(2013年)に発売した「RICOH THETA」が市場をつくり上げ、基本デザインを変えずに画質を向上した後継モデルを発売している。昨今は、賃貸物件のバーチャル内覧用の撮影にTHETAが使われるなど、BtoB用途に軸足を移しつつある。
普段スマートフォンのカメラを使っている人でも、運動会や動物園など被写体に近づけない状況では小さくしか撮影できず、不満を感じることが多い。それもあり、超望遠撮影が可能なズームレンズを搭載した高倍率ズームデジタルカメラは現在でも根強い人気を持っている。
このジャンルの製品は古くから登場していたが、金字塔的な製品となったのが平成30年(2018年)にニコンが発売した一眼スタイルの「COOLPIX P1000」。125倍ものズーム性能を持つズームレンズを搭載し、実に3000mm相当の超望遠撮影を可能とした。月も画面いっぱいにアップで撮れることが話題になり、スマホにはないデジタルカメラの魅力をアピールすることに成功した。
メーカーが想定していなかった売れ方をした意外な製品もあった。
カシオ計算機が平成23年(2011年)に発売した「EXILIM EX-TR100」は、デジタルカメラのブームを作り上げた同社の「QV-10」を現代風にアレンジしたカメラで、カメラ部とフレーム部がそれぞれ自在に回転する構造とし、自撮りが簡単にできるようにした。自撮りのニーズが低かった日本より、「きれいに自撮りができる」と人気モデルがSNSで取り上げた中国で人気が爆発し、在庫が払拭。後継モデルは予約が殺到し、発売日前に完売を告知するほどの人気を巻き起こした。
メーカーも予想しなかったユーザー層からの購買でヒットした製品としては、米GoProが平成28年(2016年)に発売したアクションカム「HERO5 Black」も挙げられる。マリンスポーツやスキー、サイクリングなどのアクティブなアウトドアレジャーが撮影できるタフな小型カメラ、という位置づけで登場したが、日本では広角レンズがもたらす独特な描写が「インスタ映えする」と若年層のユーザーにヒット。「GoProのある生活」というハッシュタグを付けて投稿する現象も現れ、高価ながら「GoProでないとダメ」と指名買いが相次いだ。
ここ数年、スマートフォンに押されっぱなしで元気のないデジタルカメラではあるが、2月末に開催されたカメラ展示会「CP+2019」では、老舗メーカーのキヤノンがスマホでは不可能な超望遠撮影が楽しめるおしゃれなデザインの小型カメラや、ラフに扱っても壊れないスティック型カメラなど、若年層をターゲットとした新趣向のモデルを多く展示して話題を呼んだ。撮影の機会も増える2020年の東京五輪に向け、どのような意欲的な製品が見られるか、注目していきたい。
(文 日経トレンディネット編集部)
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