面倒な話をサラリと伝える うるさ方も味方にするコツ『「言いづらいこと」を、サラリと伝える技術』 稲垣陽子氏

俯瞰のまなざしは、問題の根本的な解決にも有益だ。稲垣氏は「目に見える『現象』よりも、相手の『基盤』に目を向けるほうが状況を把握しやすい」と指摘し、視点の転換を促す。とりわけ過去や現在ではなく、未来を視野に入れて考えると、建設的な提案を導き出しやすくなるという。望ましい未来に向け、相手と視線をそろえていけば、同じスタンスで議論しやすくなるからだ。しがらみの多い現実から離れれば、相手から冷静な判断を引き出しやすくもなる。

「ぼかす」「あいまいにする」はNG

稲垣陽子氏

言葉選びで大切なのは、はっきりと意思が伝わる表現だ。あいまいな物言いでは、かえって混乱や誤解を引き起こしかねない。「イエス、ノーは正確に伝えたい。それに自分の理想や希望も言い添える。そうすれば、冷ややかで事務連絡的な印象にならず、反感を買わずにすむ」(稲垣氏)。一方的な「宣告」に聞こえないように相手の意見を引き出す質問を挟みながら、客観的な事実やデータに基づいて話すのも有効だろう。

相手を傷つけにくい表現も身につけておきたい。たとえば、「ノルマが未達だ」「成績が下がっているぞ」といったストレートすぎる表現を避け、『どうしたの。あなたらしくないね』と言い換えるだけでも、あたりがずっとやわらかくなる」(稲垣氏)。

相手を認め、期待もしていると思わせる表現をすれば、相手も「期待にこたえたい」というポジティブな気持ちになりやすくなる。逆に相手をとがめる口ぶりでは、「そもそもノルマが過重だ」「なぜ、自分だけを標的に」といったネガティブ反応を招きがちだ。

稲垣氏が見る限り、「『部下が期待通りに動いてくれない』という不満を抱えている上司は多い」という。その半面、言いづらいことをうまく伝えられず、部下に気を遣いすぎている上司も珍しくないそうだ。「嫌われたくない」という気持ちは分からないでもないが、実は「はっきり言わない方が信頼感を損ないやすい。部下のモチベーションにうまく重ね合わせるように話を組み立てれば、相手を巻き込みやすくなる」(稲垣氏)。

稲垣氏によると、「苦手なタイプは人によって異なるが、割と同じタイプを苦手にし続ける傾向がある」。やたらとかみつきたがる「うるさ方」は敬遠されがちな人の代表格だろう。だが、チームのメンバーを気が合う人だけにするのは無理な話。稲垣氏は「苦手な相手の特質を『才能』ととらえ直せば、見方も変わる」と提案する。

ポジティブな評価、関係変えるきっかけに

文句を言いたがる癖やうがった見方、斜に構える態度などに対し、「ひねくれた言い方をするな」と正面からとがめるようでは状況はよくならない。「面白い見方だね」「そういう発想はなかった」などと、ポジティブに評価してやれば、チームの輪からはじき出さずに済み、戦力に変えられるだろう。「苦手なタイプを減らすのはチームを効率的に動かすリーダーの必須スキル」(稲垣氏)となりつつある。

稲垣氏は「実は言いたいことをはっきり言っても、思ったほどは嫌われない」とみる。むしろ嫌みや皮肉のような形で小出しにする方が、関係を悪くしがちだという。言いたいことを長く我慢していると、いずれ抑えがきかなくなり、「大爆発的に噴出してしまい、取り返しがつかなくなりやすい」(稲垣氏)。長い間、何も言わなかったのに突然怒鳴りつけた形になると、気まぐれな感情表現に映り、相手も素直に従いにくい。

たとえば、ボールペンをやたらとノックして、カチャカチャと鳴らす癖のある部下に「ずっと我慢してきたが、もう我慢できない。うるさいから、そのカチャカチャをやめろ」と言うのは「噴火」の部類だろう。そこで「私にも直したい癖があるのだけれど、君のそれも自分のためにならないんじゃないかな」と言えば、自分の将来や評判を気遣ってくれていると感じてもらえそうだ。上司が自分の欠点や弱みを見せるのも、「上から目線」の印象を避けるうえで効果がある。

言いづらい事柄をサラリと伝えるには、日ごろの接点づくりが大切だと稲垣氏はいう。一度もしゃべったことのない相手から、きつい話を聞かされるのでは、身構えてしまうのも無理はない。上司やチームリーダーは接点を意識的に増やす努力を積み重ねておかないと、いざという時に唐突な印象を与えてしまう。いちいち飲み会に誘うには及ばない。最寄り駅を尋ねたり、ランチのおすすめ店を教えてもらったりという程度の軽い話題で構わないから、「時間の長さより、頻度を意識して、声を掛けたい」(稲垣氏)。

稲垣陽子
国際コーチ連盟(ICF)認定マスターコーチ。コーチング・システムズ代表取締役。青山学院大学で心理学を専攻。プライスウォーターハウス(現PwC)を経て、コーチ・トゥエンティワン(現コーチ・エィ)入社。独立後、社長専門コーチとしてキャリアを重ね、2014年に共創コーチ養成スクールを設立。

「言いづらいこと」を、サラリと伝える技術 (単行本)

著者 : 稲垣 陽子
出版 : 三笠書房
価格 : 1,512円 (税込み)

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