残業・有休・フレックス 4月から変わる働き方新制度
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2019年4月から順次施行される「働き方改革関連法」。残業時間の上限、有給休暇の取得義務、休息時間確保の努力義務、フレックスタイム制の時間配分自由化などが実行段階に移ります。
4月から順次施行される「働き方改革関連法」
19年4月から順次施行される「働き方改革関連法」で、多くの会社員が関係するであろうポイントは以下の4つです。
「働き方改革関連法」4つのポイント
(1)残業時間に上限が設けられる
残業時間は原則、月45時間/年間360時間までに
(2)有給休暇の取得が義務付けられる
年間5日以上の有給休暇取得が義務付けられる
(3)休息時間確保の努力義務
勤務終了後から翌日の出勤の間、一定の休息時間を確保する
(4)フレックスタイム制 時間配分がより自由に
「3カ月清算」まで可能になる
(1)~(3)は長時間労働を防ぐためのもの。(4)は柔軟な働き方を推進することが目的の制度といえるでしょう。
後述しますが、現状、残業時間が月45時間をオーバーしていたり、有給休暇を年5日以上取得できていない人は、4月1日以降に何らかの対応を迫られることになります。自分だけで対応することは難しいかもしれませんが、どういった改正が行われるか、確認しておきましょう。
残業時間に上限規制
まずは、残業時間の上限規制です。この規制は、大企業では19年4月から、中小企業は20年4月から導入されます。すでに残業時間の削減に取り組んでいる企業もありますね。
その内容は、1カ月あたりの残業時間が45時間、年間で360時間が上限となります。これ以上の残業は、原則認められません。1カ月45時間というと、単純に計算して1日あたり2時間程度の残業です。
ただし、繁忙期などを考慮し、特別な事情があって労使が合意した場合のみ、年間720時間まで認められる例外も設けられています。その場合でも、1カ月の残業時間を100時間未満にしたうえで、複数月でならして、平均で80時間を超えてはいけません。
ポイントは、違反した企業や人には罰則があること。6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
先述しましたが、現状、上記の基準を超える残業が発生している場合は、業務の見直しや効率化がもとめられるでしょう。
とはいえ、仕事の効率化にも限度があります。仕事量を減らす、サービスを削減する……といった方向へ動いていた企業もあります。たとえば、ヤマト運輸は配達時間帯の変更や値上げにより荷物の総量を減らしました。
残業代が減るのでは……と心配する声もありますが、これまで支払っていた残業代を賞与や給与で還元する企業もあります。あなたの会社はどうでしょうか。
有給休暇取得の義務化
次は、有給休暇の取得義務化についてみてみましょう。
19年4月以降、企業の規模を問わず、年間10日以上の有給休暇がある人は、5日以上の有給休暇を取得することが義務づけられます。
とはいえ、ほとんどの人がこの基準をクリアしているというデータがあります。
厚生労働省が実施した「平成30年就労条件総合調査」によると、1人あたりの有給休暇の取得日数は平均9.3日/年。あくまで平均ですが、多くの業種で、すでに義務づけられる5日を超えています。
有給平均取得日数が一番少ない「宿泊業・飲食サービス業」は、5.2日/年。ギリギリですね。業種によっては、企業側から休暇を付与される人が増えるかもしれません。
勤務間インターバル制度とは?
つづいて「勤務間インターバル制度」をみてみましょう。こちらも企業の規模を問わず、19年4月から全企業が対象です。
「勤務間インターバル」は、前日の業務終了時間から翌日の業務開始時間までの休息時間(インターバル)のこと。
たとえば、所定労働時間が9時から18時までの会社で、労働者が23時まで勤務した場合。インターバルを11時間に設定すると、翌日は10時まで勤務することができなくなります。
ただ「インターバル時間の設定」はあくまで努力義務。具体的な規定は設けられていません。インターバルの時間や、不就労時間の賃金の取り扱い(上記の例でいうと、9時から10時までの1時間の賃金)は、それぞれの企業が定めることとなります。
18年1月時点でのインターバル制度の導入割合は1.8%。ほとんどの企業で実施されていません。国は、20年までに導入企業の割合を10%以上にするという数値目標を掲げており、導入した企業に対して助成金の拡充などを行う予定です。
フレックスタイム制 清算が3カ月に
フレックスタイム制は、働く人が始業時間・終業時間を自由に決められる制度。19年4月以降は、より柔軟に時間を配分できるようになります。
通常、1日8時間(または週40時間)を超える労働時間が時間外労働ですが、フレックスタイム制では、各日(または各週)の労働時間の長さにかかわらず、清算期間と呼ばれる一定期間の総労働時間をあらかじめ決めておきます。この清算期間を通じて、平均で週40時間を超える時間が時間外労働となります。
この清算期間はこれまで最大で1カ月まででしたが、19年4月以降は、最大で3カ月まで清算期間とすることが認められます。
たとえば、4月1日から6月30日までの3カ月(91日)を清算期間として定めると、40時間×(91日÷7)=520時間。3カ月の間に約520時間の労働時間をフレキシブルタイム(出勤してもよい時間帯)やコアタイム(出勤しなければならない時間帯)の範囲内で、自由に配分することができます。
厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」によると、フレックスタイム制を導入している企業は、全体の5.6%。決して多くはありません。ただ、それぞれの事情にあわせて働く時間を選べるため、通常の勤務形態より働きやすい人も多いでしょう。今後普及していく可能性は大いにあります。
高度な専門職とは
冒頭では触れませんでしたが、19年4月に施行されるものに「高度プロフェッショナル制度」があります。こちらも簡単にみておきましょう。
高度プロフェッショナル制度は、高度に専門的な職務に就き、年収が1075万円以上の人に限り、本人の同意などがあれば労働時間などの規制の対象外になる制度です。19年4月から、企業規模を問わず適用が始まります。
専門的な職務に該当するのは、「金融商品の開発」「金融ディーラー」「アナリスト」「コンサルタント」「研究開発」の5つ。
ただ「コンサルタント」といっても無条件に制度の対象になるわけではなく、企業の経営戦略に直結する提言やアドバイスを業務とするコンサルタントに限定されます。その他、賞与も成績や成果に連動し、支払いが確実といえない場合は年収要件の1075万円の対象外となります。
また、対象者であっても、本人が希望すれば、制度から外れることもできます。
今後も続く「働き方改革」
以上が19年4月から変わることでした。いかがでしたでしょうか。
「働き方改革関連法」の施行は今後も続き、重要なものに20年4月から適用される「同一労働・同一賃金」があります。
これは、正規労働者と非正規労働者の「不合理」な待遇格差を解消するための制度で、たとえば、同じ仕事・能力・転勤の可否など条件が同じで、正社員と契約社員に賃金の差があった場合、契約社員は賃金の差の説明を求める権利が与えられ、企業はそれに答える義務を課せられます。チェックしておきましょう。
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員。経済エッセイストとして活動。近著に「5年後ではもう遅い!45歳からのお金を作るコツ」(ビジネス社)、「身近な人が元気なうちに話しておきたいお金のこと介護のこと」(東洋経済新報社)、「100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる!」(集英社)、「届け出だけでもらえるお金」(プレジデント社)など。
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