美しい透明カエルの新種発見 生息地を脅かす汚職問題
南米エクアドル、アンデス山脈のふもとの丘陵地帯を流れる小川のほとりで、美しい新種のアマガエルモドキが発見された。この成果は、2019年2月26日付けの学術誌「PeerJ」で発表された。
アマガエルモドキは、皮膚が半透明で内臓が透けて見えるカエルだ。一生のほとんどを樹上で過ごすが、繁殖時は水辺に下りる。今回見つかった新種のアマガエルモドキも半透明の体をしているが、背中に黄色の斑点が多数あり指には水かきがないという、ほかの仲間と比べて珍しい特徴があった。
この新種は、生息地のマンドゥリアク川保護区にちなんで、マンドゥリアクアマガエルモドキ(Nymphargus manduriacu)と名付けられた。標高1200メートル近辺を流れる川の渓谷の狭い地域にだけ生息し、オスはかん高い鳴き声で交尾相手を探す。
生息地は、民間の自然保護区の中にあるが、採掘権も認められており鉱山開発が進んでいる。今回の論文によると、金や銅の鉱脈探査の影響で、マンドゥリアクアマガエルモドキはすでに絶滅の危機に瀕しているという。
現在、エクアドルでは鉱山開発が「危険なレベルで増えている」している、と論文の筆頭著者であるサンフランシスコ・デ・キト大学の研究者フアン・マヌエル・グアヤサミン・エルネスト氏は述べる。アンデス山脈には多くの固有種と未記載種が生息するが、このカエルも開発による生息地の破壊の脅威にさらされている種の1つと言える。
保護地なのになぜ守れない?
エクアドルでは、金などの地下資源の権利を政府から取得できる制度がある。この制度では、自分が所有していない土地に対して採掘権を取得できる。もちろん、法律では、土地の所有者や地域社会と協議することが義務付けられている。
新種のカエルが見つかった地域は、エコミンガ財団という保護団体が所有している。しかし、エクアドル政府は、何の協議もせずに、オーストラリアに拠点を置く世界最大の鉱業会社BHPの子会社であるセロ・ケブラドに採掘権を売却したのだ(BHPにコメントを求めたが、返答はなかった)。
環境や人権を専門とするエクアドルの弁護士エステバン・ファルコーニ氏は、開発を進める会社を相手取った訴訟に発展する可能性があると話す。しかし、訴訟しても勝ち目があるかは不明だ。というのも、「エクアドルでは、石油の開発により経済をてこ入れする思惑が外れたこともあり、近年鉱業を推進しようとしている」(米オレゴン大学の生態学者ルー・バンデグリフト氏)からだ。現在のエクアドルでは、法廷は行政の影響を大きく受ける傾向にある。
エクアドルでは、隣国のコロンビアやペルーに見られる大規模な鉱業プロジェクトは行われてこなかった。そうした中で、開発が進む背景には汚職の問題がある。その代表がホルヘ・グラス元副大統領だ。グラス元副大統領は、ブラジルの建設会社から1350万ドルの賄賂を受け取ったとして、2017年12月、懲役6年の判決を受けている。
鉱山採掘は、アマゾン川流域の国々の自然に「壊滅的な影響」を及ぼしてきた過去がある。ただ、エクアドルの憲法には、自然に対する不可侵の権利が謳われており、他国のようにはならないと考えられてきた。それだけに「自然保護活動家は、最近の政府の鉱業推進政策を警戒している」とバンデグリフト氏は話す。
発見をカエル保護の大きな声に
研究者は、発見したアマガエルモドキの新種を国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで、個体数が極めて減少している「近絶滅種」に指定するよう提言している。
自然保護団体は、今回の件を、鉱業の影響でエクアドルの希少動物が大きな危機に直面していることを示す象徴だと考えている。
エクアドルには600種近くの両生類が生息すると言われる。「そのうちの20%以上は、まだ分類学な記載がない『未記載種』のままだ」と、エクアドルのジャムバツ両生類研究保護センターの所長ルイス・コロマ氏は言う。なお同氏は、今回の論文の研究チームの一員ではない。
コロマ氏は続ける。「今回の研究は、この新種とその他の絶滅の危機に瀕する両生類を、鉱山開発から守る大きな抗議の声なのです」
(文 DOUGLAS MAIN、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年3月8日付]
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