埋もれた技術で一歩先へ ものづくり信じる起業家の志TRINUS(トリナス) 佐藤真矢代表(下)

リンカーズの場合、大手が求める技術に対応できそうな中小企業をコーディネーターが探し出す。また、大手が呼びかける際に、最初は大まかな条件で10社程度を集め、情報漏れのリスクを減らしたうえで徐々に細かい条件を出して絞り込んでいく。中小側も関門を突破するごとに協力的な姿勢になり、信頼関係が築ける。

背中を押してくれた社長のひと言

日本には優れた技術がたくさん眠っている

佐藤氏が入社して驚いたのが、段ボールを使った部屋に置ける防音室の開発案件だった。製品を企画したメーカーは生産できるパートナーを探したが1年たっても見つからない。そこでリンカーズに依頼が来た。同社はコーディネーターに声をかけ、1日で候補企業30社の情報を収集。詳細に検討した結果、わずか1週間で条件を満たすパートナーを決めることができた。商品は数カ月後、「だんぼっち」の名称で売り出された。

「企画会社の条件に合う技術を持っているメーカーが、ちゃんと存在することに感動したんです」。佐藤氏は振り返る。そして考えた。日本にはすごいメーカーがたくさんあるのに、埋もれているんじゃないか。障害者の支援でデザインコンペを開いたとき、「世の中にはこんなにたくさんのデザイナーがいるんだ」と感動したときと同じ問題意識だ。

「そのとき、ピンと来たんです」。埋もれている優れた技術を発掘して公開し、デザイナーやエンジニアのアイデアを募って新しい製品を開発できないか――。新しい事業として立ち上げたいと、すぐ前田社長らに相談した。

しかし、リンカーズはまだ創業したばかり。社員も限られるなか、主力のマッチング事業を軌道に乗せることが先決だと、最初は却下された。それでも事業化したい気持ちを抑えられない。最後は前田社長が「そこまでやりたいなら独立してやってみたら」と背中を押してくれた。「感謝しても感謝しきれない。今も事業でお世話になっている」という。

14年11月、トリナスを設立。起業にあたっては、新卒で入社した大和証券SMBC(現大和証券)でベンチャーの資金調達に携わったことが役立った。また、大和時代に2年間、経済産業省に出向した経験も生きた。経営破綻した企業の私的整理の一種である「事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)」の法案づくりに関わったのだ。「そこで身に付けた法律や契約、財務、経理といった知識は今も実務に役立っている」

とはいえ、事業は苦労の連続だという。一つはメーカーから新製品企画の依頼を受けて契約を結ぶまで。まず、そのメーカーが持つ技術に関する膨大な資料を読み込む。その中からどの技術を取り出して公開するか、会社側と何度も打ち合わせる。さらに、最終的に商品化できたときに、売り上げの何%をもらうかも事前に決めておく。「難色を示すメーカーもあるが、デザイナーに報酬を約束するからには譲れない」。そこまで固めてアイデアを募集するサイトを立ち上げるのに「最低2カ月、長いと半年かかる」。

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