耳に入れるスポンジ部分を外すと、内部に白いフィルターが張られている。ここに小さな穴を開けたり、厚さを変えたりして音の入り口部分の形状を工夫することで中域、高域の音を通りやすくし、音のバランスを整えているのだ。
ライブ用耳栓はフィットイヤーの他に、銀座十字屋が扱うオランダ発祥の「THUNDERPLUGS」、CRESCENDOの「イヤープロテクター」など様々な種類がある。「フィルター部の加工方法やボリューム抑制の度合いがそれぞれ異なるので、ニーズにより最適なものを選んでほしい」(須山さん)
ライブの体感エネルギーは変わらず
仕組みを理解した上で、実際にJポップバンドのライブで使ってみる。使ったのは1000人規模のライブハウスで、ステージから近い前方の席だった。会場を見わたしてみると、離れた場所にライブ用耳栓を装着した人の姿が。最初は周囲の目が少し気になったが、使用している人がいたことで気にせず使うことができた。
装着した状態でライブに参加したため最初は効果がわからなかったが、曲の途中でイヤープラグを外してみると「こんなに大きな音が鳴っていたのか」と驚いた。再び装着すると音量が下がり、それでいて外したときと比べて音のバランスに違和感もない。むしろ外しているときは高音がキンキンして耳が痛く感じることもあったが、装着しているとそれが適度に抑えられ、より音楽に没入できる感じがした。
違和感がなかったのは、ボディーソニック(音楽を聴いた時に体が感じる振動)は変わらず感じることができたためだろう。ライブ会場では文字通り音楽を体感しているので、耳で聴く音量が下がっても迫力は損なわれないのは予想していなかった発見だった。
いざというときのお守りとして
須山さんはこうしたライブ用耳栓を「まぶしいときにサングラスをかけるようなもの」と例える。
「車の運転中やスキー場で、まぶしいときにサングラスやゴーグルをかけることを変だと指摘する人はいません。耳栓をすることに抵抗を感じる人もいますが、ちょっと耳がきついなと感じた人が適宜耳栓を利用することで、耳のつらさを我慢することなくライブを満喫できます」
また、「お守りとしての側面もある」と続ける。
「来場者全員が公演中ずっと使う必要はありません。音量が大きくないMC中やバラードでは外したり、持っていったけど使わなかったりということがあってもいいでしょう。使う基準は自分がつらいと感じるかどうかです。ライブの音量は自分では調整できないので、いざというときに取り出せるようにしておくと、安心感があると思います」
普及の鍵を握るのはアーティスト発信
耳に優しいことはわかった。それでもライブで耳栓をするのはアーティストに失礼な気がして、使用をちゅうちょしたりしてしまう人もいるのではないか。