「非情の山」K2山頂からのスキー滑降 初成功の物語

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/3/27
ポーランドのチームがベースキャンプから望遠鏡で見守るなか、助けの手すら届かない山頂からたったひとりで滑降するバルギエル氏。弟のバルテク氏が、ドローンに搭載したビデオカメラで歴史的な挑戦の一部始終を撮影した(PHOTOGRAPH COURTESY, ANDRZEJ BARGIEL)

まず山をすっぽりと包む深い霧が、行く手を阻んだ。視界が効かない状態では、数ある崖やセラック、氷河を避けて通るのは不可能だ。より安全なアブルッチルートを行くという選択肢もあったが、そちらは「ブラックピラミッド」と呼ばれる高さ600メートルの岩場をロープで懸垂下降しなければならず、全行程をスキーで降りるという目的が果たせない。緊張の1時間半が過ぎると霧が晴れ、前人未到の南側斜面へ向かって、歴史的挑戦の一歩を踏み出した。

その晩の7時ごろ、バルギエル氏はK2のふもとのゴドウィン・オースティン氷河へたどり着いた。所要時間は7時間。垂直距離にして3597メートル。命をかけた歴史的なスキー滑降は、こうして成し遂げられた。心も体も疲れ果てたバルギエル氏は、そのまま1時間半雪の上に横たわった。

K2には危険が数多く立ちはだかる。数トンもの氷の塊が、いつ崩れて雪崩を起こし、すべてをのみ込んでしまうかわからない(PHOTOGRAPH COURTESY, ANDRZEJ BARGIEL)

「到着したときは、子どものようにうれしかったです。深い安堵感と幸福感を覚えました。一度もコントロールを失うことのなかった自分を、うれしく誇りに思います。初めのうちは自信をなくしかけたこともありました。しかし終わってみると、すべて納得がいき、考えていたことが正しかったことも分かりました」

実はポーランドは、世界的な登山家を数多く輩出している国だ。K2山頂からのスキー滑降成功の知らせが入ると、バルギエル氏の偉業に国中が沸いた。国会議員や著名なジャーナリスト、元オリンピック選手から、バルギエル氏のもとに祝いの言葉が届いた。

「酸素ボンベも持たずにたったひとりで登り、スキーで滑降する。人類の偉業です」

2度挑戦しながら途中で断念したワトソン氏も、バルギエル氏の功績を讃えた。

(文 Aaron Teasdale、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2019年3月2日付記事を再構成]

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