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「非情の山」K2山頂からのスキー滑降 初成功の物語

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ナショナルジオグラフィック日本版

パキスタンと中国の国境線が走る凍てついたカラコルム山脈。その山奥深くにそそり立つのが、標高8611メートル、世界第2位の高峰K2だ。「非情の山」と形容されるK2の山頂からのスキー滑降に、2018年7月に成功した人物がいる。どれほどの偉業なのか、見ていこう。

◇  ◇  ◇

K2の高さは、エベレストに237メートル及ばない。しかし、K2のほうが険しさも寒さもはるかに上回る。K2の頂を征することは難しく、過去挑戦した4人に1人が命を落としている。K2登頂の難しさを、如実に物語る数字だ。1953年に登頂を断念した米国人のジョージ・ベルは、「(K2は)人を殺したがっている。非情の山だ」という言葉を残した。

氷に覆われた崖、突如として発生する雪崩、意識を奪う低酸素状態、殺人的な寒さ、ひっきりなしに起こる嵐。これ以上危険な「スキー場」はほかにない。過去25年間、スキーの達人が何人も山頂からの完全滑降に挑戦しては失敗を繰り返している。

エベレスト山頂から初めてスキーで滑降したハンス・カラマンダー氏は、2004年に目の前で滑落する登山者を見てK2挑戦をあきらめた。2009年、K2の下の斜面でトレーニングをしていたミケレ・ファイト氏は命を落とし、それを目の前で目撃していたパートナーのフレデリック・エリクソン氏もまた、翌年の再挑戦時、頂上からわずか400メートルの地点で転落死した。

世界有数のスキー登山家の挑戦を退けてきたK2山頂からのスキー滑降を成し遂げたのは、ポーランド人の冒険スキーヤー、アンジェイ・バルギエル氏だ。同氏は、2013年から標高8000メートルを超える山をスキーで降りるという挑戦を始めた。

2017年、バルギエル氏はK2でのスキー滑降に挑むことを公表。同じ頃、スロベニア人でベテランのエクストリームスキーヤーであるダボ・カルニカ氏も、同様の計画を立てていることを明らかにしている。

カルニカ氏は2000年に、世界で初めてエベレスト山頂からふもとまでの完全滑降に成功した人物だ。1993年にはK2に初挑戦していたが、標高7894メートルの地点でスキー板が風で飛ばされてしまい、断念せざるを得なかった(スキー板を失っただけで済んだのは運がよかったのかもしれない)。

2017年の夏は、2人ともK2への挑戦を果たすことができなかった。そもそも、K2を登頂すること自体が難しいのだ。

バルギエル氏は、弟のバルテク氏の操縦するドローンで事前調査し、予定しているルートを半分まで登り、嵐に備える避難用の穴を掘った。また、1日の気温変動に雪や氷河がどう反応するかを研究し、障害物を回避するために必要なタイミングやポジショニングを頭に叩き込んだ。雪山には、今にも崩れそうなセラック(クレバスで断ち切れた氷の塔)がいたるところに潜んでいる。ちなみに、2008年、このセラックが1本崩落したために11人の登山者が命を落としている。

「K2への登山経験がある登山家やガイドと話をすると、『絶対に無理だ』と言われます」と、ダベンポート氏は言う。

バルギエル氏は、「私が成功すると信じる人は、まずいませんでした。一度目の失敗の後は、なおさら信じてもらえませんでしたね」と明かす。

バルギエル氏は2018年に再びK2へと戻る。最寄りの村からベースキャンプまで110キロの道のりを歩き、そこで天候の回復を待った。幸い2018年は、K2へ登るには適した年だった。7月19日、バルギエル氏は酸素ボンベも持たずに頂上を目指して出発。7月22日午前11時28分、彼はスキーを持って単独で世界第2の山の頂上に立った。

風に飛ばされないように注意しながら、スキー板を荷物からほどく。板の表面には、両親、3人の姉妹、7人の兄弟のイニシャルが書かれていた。だが、登頂した感慨にふける暇はない。スキー板を装着し、傾斜50~55度の急な氷の斜面を慎重に滑り降りた。準備している時には不安に襲われることもあったが、実際に滑っている間は「すべての恐れが消えていました。心の中は落ち着いて、完全に集中できました」と、バルギエル氏は後に語っている。

極限状態でスキーをするには、それだけ強靭な集中力が必要とされる。「転倒は、死を意味します。遺体すら発見されません」。2009年にK2で2度目のスキー滑降に挑戦した米国人のデイブ・ワトソン氏は言う。このとき、ワトソン氏は標高8352メートルの地点で胸まで届く深い不安定な雪に阻まれて滑降を断念した。

空気は薄く、バルギエル氏はカーブを曲がるたびに立ち止まって息を整えながら、標高7689メートルまで順調に下ってきた。ここから先は、キャンプや固定されたロープがあるメインの登山ルートを外れ、誰も足を踏み入れたことのない未知の領域へ分け入る。既存の一本道を行くのではなく、4本の登山道を結ぶ独自のルートを事前に描いてあったのだ。危険な道のりだった。

まず山をすっぽりと包む深い霧が、行く手を阻んだ。視界が効かない状態では、数ある崖やセラック、氷河を避けて通るのは不可能だ。より安全なアブルッチルートを行くという選択肢もあったが、そちらは「ブラックピラミッド」と呼ばれる高さ600メートルの岩場をロープで懸垂下降しなければならず、全行程をスキーで降りるという目的が果たせない。緊張の1時間半が過ぎると霧が晴れ、前人未到の南側斜面へ向かって、歴史的挑戦の一歩を踏み出した。

その晩の7時ごろ、バルギエル氏はK2のふもとのゴドウィン・オースティン氷河へたどり着いた。所要時間は7時間。垂直距離にして3597メートル。命をかけた歴史的なスキー滑降は、こうして成し遂げられた。心も体も疲れ果てたバルギエル氏は、そのまま1時間半雪の上に横たわった。

「到着したときは、子どものようにうれしかったです。深い安堵感と幸福感を覚えました。一度もコントロールを失うことのなかった自分を、うれしく誇りに思います。初めのうちは自信をなくしかけたこともありました。しかし終わってみると、すべて納得がいき、考えていたことが正しかったことも分かりました」

実はポーランドは、世界的な登山家を数多く輩出している国だ。K2山頂からのスキー滑降成功の知らせが入ると、バルギエル氏の偉業に国中が沸いた。国会議員や著名なジャーナリスト、元オリンピック選手から、バルギエル氏のもとに祝いの言葉が届いた。

「酸素ボンベも持たずにたったひとりで登り、スキーで滑降する。人類の偉業です」

2度挑戦しながら途中で断念したワトソン氏も、バルギエル氏の功績を讃えた。

(文 Aaron Teasdale、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2019年3月2日付記事を再構成]

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