「非情の山」K2山頂からのスキー滑降 初成功の物語

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/3/27
ナショナルジオグラフィック日本版

カラコルムのとがった峰々を望み、滑る姿を思い描く(PHOTOGRAPH BY BARTEK BARGIEL, RED BULL)

パキスタンと中国の国境線が走る凍てついたカラコルム山脈。その山奥深くにそそり立つのが、標高8611メートル、世界第2位の高峰K2だ。「非情の山」と形容されるK2の山頂からのスキー滑降に、2018年7月に成功した人物がいる。どれほどの偉業なのか、見ていこう。

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K2の高さは、エベレストに237メートル及ばない。しかし、K2のほうが険しさも寒さもはるかに上回る。K2の頂を征することは難しく、過去挑戦した4人に1人が命を落としている。K2登頂の難しさを、如実に物語る数字だ。1953年に登頂を断念した米国人のジョージ・ベルは、「(K2は)人を殺したがっている。非情の山だ」という言葉を残した。

氷に覆われた崖、突如として発生する雪崩、意識を奪う低酸素状態、殺人的な寒さ、ひっきりなしに起こる嵐。これ以上危険な「スキー場」はほかにない。過去25年間、スキーの達人が何人も山頂からの完全滑降に挑戦しては失敗を繰り返している。

エベレスト山頂から初めてスキーで滑降したハンス・カラマンダー氏は、2004年に目の前で滑落する登山者を見てK2挑戦をあきらめた。2009年、K2の下の斜面でトレーニングをしていたミケレ・ファイト氏は命を落とし、それを目の前で目撃していたパートナーのフレデリック・エリクソン氏もまた、翌年の再挑戦時、頂上からわずか400メートルの地点で転落死した。

世界有数のスキー登山家の挑戦を退けてきたK2山頂からのスキー滑降を成し遂げたのは、ポーランド人の冒険スキーヤー、アンジェイ・バルギエル氏だ。同氏は、2013年から標高8000メートルを超える山をスキーで降りるという挑戦を始めた。

氷の壁を登るアンジェイ・バルギエル氏。2018年7月、世界第2位の高峰K2の頂上からのスキー滑降に初めて成功した(PHOTOGRAPH BY MAREK OGIEN, RED BULL)

2017年、バルギエル氏はK2でのスキー滑降に挑むことを公表。同じ頃、スロベニア人でベテランのエクストリームスキーヤーであるダボ・カルニカ氏も、同様の計画を立てていることを明らかにしている。

カルニカ氏は2000年に、世界で初めてエベレスト山頂からふもとまでの完全滑降に成功した人物だ。1993年にはK2に初挑戦していたが、標高7894メートルの地点でスキー板が風で飛ばされてしまい、断念せざるを得なかった(スキー板を失っただけで済んだのは運がよかったのかもしれない)。