スマホで撮るだけ 津田大介が見た服採寸アプリの実力

コー氏は現地に泊まり込んで30~50にのぼる工程を体験し、もともとソフトウエアエンジニアだった同氏の視点で、効率化・自動化できるポイントを一つずつ改善していった。当初は現場スタッフとのカルチャーギャップも感じたそうだが、フレックスジャパンと山喜は非常に前向きで、製造ラインの改革を受け入れてくれたそうだ。「フレックスジャパンや山喜がオープンマインドで迎えてくれたことが、オーダーシャツを今のスピードで世界中に届けられる生産体制の実現につながっています」

今後もスケールの増加に合わせて契約する工場を増やし、生産体制を拡大していくというコー氏の話を聞いていて、Original Stitchのビジネスモデルは、ラクスルのオーダーメードシャツ版だと思った。全国にある小さな印刷所と印刷ニーズをマッチさせるシステムをラクスルが開発して遊休資産をうまく活用しているように、このモデルが拡大して契約できる工場が増えれば、地方の活性化にもつながるだろう。

集めたデータを他分野にも活用

今回、Bodygramを体験していて気になったのが、収集したデータの活用方法。アプリで採寸したデータをもとにフィットした服を選んでいくとすれば、定期的に測り直す必要があり、体形の変化などのデータも蓄積されていく。そのデータがあれば、体調管理や医学的なサービスといった分野にも活用できそうだ。そういうとコー氏は大きくうなずいた。

「収集したデータはファッション業界だけでなく、保険やフィットネス、ライフスタイルなど、さまざまな分野と連携していける可能性があると思っています。例えば、海外のアスリートに写真を撮ってもらうだけで、世界中のどこにいてもデータが収集できて、大会がある選手村に行ったときには、自分専用のマットレスが届いているといったサービスも可能でしょう」

同社がBodygramと同時に発表したのが、Bodygramで採寸したデータを蓄積するデータプラットフォーム「BodyBank(ボディーバンク)」。18年8月には、寝具メーカーの「エアウィーヴ」と業務提携を行い、ユーザーの体形に合わせて硬さを調節した寝具を生産する過程で、Bodygramの採寸データを提供している。

今は、スマホをはじめとしたテクノロジーを通じて、日常生活におけるあらゆるデータが蓄積されている。それらのデータは、サービスを提供する企業にとって宝の山なのだと改めて実感した。

アパレル業界に革命を起こせるか

最後に、この先5~10年にかけて、どのようにファッション業界を変えていきたいかを聞いてみた。「一つは、すべてのアパレル業界にBodyBankを導入することです。アパレル会社は製品を作る上で、アメリカ人と日本人の体形の違いなど、カスタマーのことを理解する必要があります。BodyBankを使えば、より早く・安く・正確に顧客情報を知ることが可能です。また、アメリカや中国に比べて小さい、日本のEC(電子商取引)マーケットを拡大させていきたいとも思っています」

Original Stitichをリリースした当初は、BodyBankのようなデータ・プラットフォームサービスを提供することは全く考えていなかったという同氏だが、オーダーメード品をより手軽に作るために採寸方法を追求していった結果、Bodygramが生まれ、収集したデータをビジネスに生かせるアイデアが生まれていったのだろう。

年初にも話した通り、19年は「オーダーメード」に注目している(記事「5Gがすべての基礎になる 2019年デジタル製品予測」参照)。昨年注目を集めた「ゾゾスーツ」や以前紹介した「SEAL(シール)」(記事「津田大介の背中をスキャン リュックをオーダーで作る」参照)のように、採寸方法が進化し、オーダーメード品がより手軽に作れるようになると考えているからだ。

あとは、この技術や収集したデータをどう活用するか。アパレル業界は、車やスマホに比べて技術革新が遅れている分野だが、これまで注文生産をしていた企業と組めば、一気にオーダー品が身近になる可能性もある。ジン・コーCEOが話すマス・カスタマイゼーション革命が、今後どのように広がっていくか注目したい。

Bodygramで集めたデータは様々な分野で活用できそうだ

※インタビュー後の2019年3月25日、アパレル大手のワールドがOriginal Inc.の子会社化を発表した。ただBodygramはOriginal Inc.が新たに設立した米Bodygramが中心となって展開するという。

津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。主な著書に「情報の呼吸法」(朝日出版社)、「Twitter社会論」(洋泉社新書)、「未来型サバイバル音楽論」(中公新書ラクレ)など。近著に「情報戦争を生き抜く」(朝日新書)。

(編集協力 藤原龍矢=アバンギャルド、写真 渡辺慎一郎=スタジオキャスパー)

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