2019/3/19

進学が決まっていた大学院で研究をしながら出版準備を進めたため、発刊に2年以上かかった。修了後はIT(情報技術)企業に入りウェブ広告の仕事を始めたが、料理研究への思いは募る一方。「安定を失う怖さはあったが、せっかくの機会を失いたくない」と覚悟を決めて13年に退社し料理研究家の道を選んだ。

転職を後押ししたのは、科学的なアプローチで料理のポイントを伝える自信があったから。「やりたいことは常に変わる。今後も色々なことに挑戦したい」と意気込む。

磁性流体などの新素材を使って芸術作品をつくる児玉さん

電磁気学 生かす芸術家 児玉幸子さん

児玉幸子さん(48)は北海道大学で物理学を学び、現在は芸術家として活躍している。手掛けるのは動く造形作品。球形ガラスの内部で透明な油の中を黒い液滴が次々に現れ、離合集散を繰り返す。下部に取り付けた電磁石の力を使い磁性流体という磁石の性質をもった液体が生きているように形を変える。動く彫刻だ。

小さいころから科学者と芸術家の両方に憧れていた。いったん科学を学ぼうと大学に入学した後も芸術への熱意は変わらず、展覧会を度々訪れていた。心を動かされたのは仮想現実(VR)などを使うメディアアート。「動きを感じる全く新しい表現に魅了された」。学部時代は半導体の研究をしながら美術の予備校に通い、筑波大学大学院の芸術研究科に合格した。

大学院時代に磁性流体を知り、生き生きと動く不思議な材料のとりこになった。磁性流体を使った作品を発表すると国際的な賞を次々に受賞して芸術家としての一歩を踏み出した。大学で身につけた電磁気学の知識が創作活動にいきた。

児玉さんは今、電気通信大学で准教授として芸術を教える。男性が多い理系のなかで研究室には多くの女子学生が集まる。理系で培った強みが様々な分野で生かせることを身をもって伝えている。

多様な進路、理系増やす ~取材を終えて~

記者も理系。大学時代の周囲の女子学生は、大学や企業の研究者、中学高校の教師などを選ぶ場合が多かった。専門分野をそのままいかして活躍できるからだ。最近はリケジョが定番コースのみにこだわっているわけではない。マイナビ(東京・千代田)が2019年卒業の学生15894人に調査したところ、「大企業志向」は全体で54.5%で、理系男子61.9%に比べ理系女子は47.5%。リケジョの方が将来を柔軟に捉えている傾向がうかがえる。

理系の素養が思いがけない力を発揮するのは今回登場した3人が示している。ただ、現状では、理系を選ばずに文系に進む女子学生が多い。多彩な進路が広がっていると分かれば、理系を志すきっかけになるだろう。また、理系に限らず、働く女性が活躍し続ける上で、培った専門性を異分野で発揮する姿勢は参考になりそうだ。

(遠藤智之)

[日本経済新聞朝刊2019年3月18日付]