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女性の起業に投資をしよう 男性視点でつかめぬニーズ ダイバーシティ進化論(村上由美子)

2019/3/23

私の母は、子育てが一段落した40代になってドラッグストアを起業した。時はバブル経済が崩壊し、デフレが長期化し始めた1990年代。その上、母の住む山陰地方は既に少子高齢化が進み、小売業にとって厳しい市場環境であった。だが、彼女の事業は急成長。2000年代には中国地方で最大級のドラッグストアチェーンに発展した。

成功の要因の一つは、母の主婦としての視点であった。ドラッグストアの顧客の大半は女性だが、競合他社の経営者は全員男性。母は消費者の嗜好を先読みし、的確な商品戦略を打ち出すことでビジネスを拡張した。しかし苦労したのが資金調達だ。女性の起業家がアクセスできる資金は極めて限定的。結局、母は父の勤務先から出資を受けることで事業を継続させた。

世界の購買力の7割以上を女性が占めるといわれる。それだけに消費に関わる様々なアイデアの持ち主も多いだろう。だが、世界的に見ても女性が起業する割合は半分程度。さらに女性は起業しても大半が小規模な事業にとどまる。

米国の調査によると、ベンチャー資金のわずか2%しか女性起業家に投資されていない。日本も同様だろう。起業には多様な分野の人脈が不可欠だ。強固なエコシステム(生態系)があれば事業拡張の助言や資金調達を受けやすいが、女性起業家はエコシステムの蚊帳の外になりがち。この状況を打破する必要がある。

最近、欧米では「ジェンダーレンズ投資」が注目され始めている。審査にあたり、投資先経営層のジェンダーバランスを重視するものだ。資金の流れと同時に、様々なサポートが得られるネットワークに女性の経営者を積極的に迎える動きも活発化している。

これを日本に取り入れると面白いのではないか。金融機関の投資や融資審査の担当者は、大半が男性だ。男性視点中心の意思決定で、見逃している投資機会は少なくないだろう。起業家ネットワークにも意識して女性を迎えるべきだ。

母のドラッグストアでは、介護用品販売の大規模展開が売り上げ拡大に大きく寄与した。「介護は奥様任せ」の男性融資担当者にはピンとこないニーズをくみ取り成長したわけだ。もし当時の日本にジェンダーレンズ投資があったなら、大人用オムツの潜在需要の大きさを取引先の金融機関に繰り返し説明する母の苦労は省けたかもしれない。

村上由美子
 経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2019年2月11日付]

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